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レッズボイス

2010.3.2 Vol.64「Talk on Together 2010」を開催

橋本光夫代表 挨拶

橋本社長 橋本代表:皆様、こんばんは。本日はお寒い中、多数の皆様にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
また皆様におかれましては、日頃から浦和レッズに対し、多大なご支援とサポートを賜り、心から御礼を申し上げます。今日、実は、私自身、お話しする内容についてのきちっとした原稿を用意しておりません。私自身が日頃思っていることを、私の言葉で直接、皆様にお聞きいただければと考えております。お聞き苦しい点も多数あるかと思いますが、ご容赦いただきたいと思います。

 昨年の埼玉スタジアムでの最終戦の最後に、私自身の非常に悔しい思いを、皆様へのご挨拶の中で述べさせていただきました。そのときに「2010シーズンは魅力あるサッカーで強い浦和レッズを作ります」というお約束をさせていただきました。シーズン終了直後、新しいチーム作りを本格的に始めましたが、ご存じのとおり、チームはフィンケ監督の2年目の体制作りを進める、という方針に基づき、特に選手の編成については、将来の中心選手として成りえるような若手選手にアプローチをしてきました。結果的にオファーを出した選手全員に来てもらう事はできませんでしたが、ポジションを見ても年齢的に見ても、ほぼ、我々が意図した補強ができたのではないかと考えています。このメンバーで、一次キャンプ、二次キャンプを終えて、現在、最終段階に入っているところです。私自身も今日、ここに来る前に大原のグラウンドに顔を出して、メンバーを見てきましたが、非常に元気に練習に励んでいますので、来週から始まるリーグ戦に対しては、皆様の期待に応えられるゲーム展開をしてくれるものと確信をしております。
 昨シーズンに関しての話をもう1点、させていただきますと、実は2008年のシーズンが終了した直後に、浦和レッズとしては2009年シーズンから、浦和レッズ改革元年と位置づけて、魅力のある新しいチーム作りを進めると同時に、クラブマネジメントについても、それまでのやり方から大きく転換するというお約束を皆様にさせていただいたと思います。結果的にチームはリーグ戦6位という残念な結果でしたが、チーム自身はフィンケ監督のもとで非常に前向きに新しいサッカーに取り組んでくれたと思います。一方、クラブとして、フィンケ監督をサポートする体制、あるいはクラブとして長期的な視点に立ったチーム作りが、本格的にできたかという部分で、私自身は、疑問点が多いと感じました。残念ながら信藤TDが病気で療養を余儀なくされた背景も踏まえ、1月1日付けで新たに柱谷GMを迎え、ユースやJrユースも含め、アカデミーの部分を統括するというチームの構築に取り組んでもらうことにしました。こうしたところ、昨年の反省を含めて、大きく変えたところです。具体的には、昨年のスタートにあたって、監督、クラブ、チームダイレクター、それぞれの役割を明確に定めていなかったという部分も感じたところがありますし、何よりもチームの1年間の目標を明確にしていなかったことが、チームとクラブが一丸となって1年間を戦うためには、不足していた点だと考えました。今シーズンは、新年明けてすぐに、柱谷GMも含めて、私とフィンケ監督と、長時間にわたり、ミーティングを行ない、2010シーズンのチームの目標として、「タイトル奪取を目指して一戦一戦全力で戦い、ACLの出場権を何としても獲得する」これが目標であることを3者で確認し合いました。同時に、選手補強等も含め、チームの強化・育成に関しては、クラブとGMと監督が一枚岩となって1シーズンを戦い抜こうと確認しあったところです。この目標を、この席を借りて、改めて皆様にご報告させていただきます。
なお、信藤さんとは、私自身もことあるごとに連絡を取り合っていますが、昨日も電話で話をして、本日、この「Talk on Together」が開催されることを伝えたところ、一度、皆様に直接会ってお話をしたいとのことですが、今日は来られないため、皆様によろしく伝えてほしい、ということでしたので、私の口から信藤さんの状況を、ご報告させていただきました。
 私自身、レッズに来て10ヵ月が経過しました。クラブに着任する前から浦和レッズをどういう位置づけで進めていくのかを考えながら、この10ヵ月を過ごしたのというのが正直なところです。実は先週、ある大学で、浦和レッズについて、話をしてほしいと要請を受け、2時間ほど話をさせていただきました。経営的な話を期待されたような研究会ではございましたが、私はその講演の中で、最初に3分間ほどの映像で、埼玉スタジアムの試合の日を披露いたしました。映像のほとんどが、ピッチ上でプレーをしている選手ではなく、スタジアムのスタンドで応援していただいているサポーターの皆様やファンの皆様を映し出した映像でした。私はこの映像について「これが浦和レッズのすべてです」というお話をしました。いろいろな局面で皆様とお話しする機会があります。私自身はファン・サポーターの皆様やホームタウンである浦和が、浦和レッズを支えてくれている大きな力であり、浦和レッズはホームタウンやファン・サポーターの皆様の財産であり、その皆様から大きな夢を託されているのが浦和レッズなんだ、ということをこの10ヵ月で強く感じ取りました。
 試合の日に浦和美園駅前を通ると、近くのマンションで、朝早くからベランダに浦和レッズの旗を掲げている光景によく出会います。ある試合の日、見上げると、60歳を過ぎたぐらいのお父さんと、30歳を過ぎたぐらいの息子さんが2人がかりで旗を掲げてくれていました。試合日以外でも、埼玉スタジアム周辺を歩いていると、ときどき、お母さんと小さなお子さんがスタジアムに遊びに来てくれて、4歳くらいの女の子が、「社長、浦和レッズが勝てるように頑張ってください」と声をかけてくれます。このようないろいろな光景に接して、この人たちは家庭でどんな会話をしているのだろう、と考えたとき、まさに浦和レッズを一つの大きな支えとして、家族や親子、あるいは友達といった多くの人たちがつながっている、というのを感じ取った一面です。ぜひ、そういった方々の期待に応えるような浦和レッズにしていきたいと考えております。
 簡単に経営的な部分のお話をさせていただきます。ご存じのとおり、厳しい経済状況もあり、浦和レッズを取り巻く経済環境も厳しいものがございます。昨年のJリーグでの埼玉スタジアム、ホームゲームでの入場者数も、1年前に比べて約3,500人減少したことで、1試合平均、4万5,000人を切ってしまった状況です。現在も営業部門が中心になって、2010年度のパートナー企業の皆様に対して支援を要請しているところですが、パートナーの皆様からは、それぞれの会社の経営状況を考えて、前年と同額の支援は難しいといったようなお話をいただいているのも事実でございます。このように、レッズを取り巻く厳しい環境の中でも私自身はクラブの中で、皆様の期待に応えるという浦和レッズの大きな役割を果たすために、前年よりも少ないチーム運営費ではなく、前年並みを何とか確保したいと考えています。クラブ自身の合理化、あるいは不要なプロジェクト等に対する見直しを行ない、真に必要なものだけを、必要最小限の費用で運用するようにしようと、全クラブスタッフが一丸となって、まさに浦和レッズ本体の経営改革にも取り組まなければならないという方針で、2010年度のクラブ運営をスタートさせたところでございます。
 皆様におかれましては、日頃から、浦和レッズに非常に多くのご声援をいただいております。先ほどもお話しましたように、街の誇りとして、皆様一人一人の誇りとして、皆様のご家族の誇りとして、浦和レッズがその役割を果たせるように、2010シーズン、全クラブスタッフ、チーム一丸となって、取り組んでいく覚悟でございますので、引き続き、これまで以上のご支援、ご声援を賜りますよう、お願い申し上げます。
 なお、最後に付け加えさせていただきますが、皆様にご来場いただいている埼玉スタジアムの運営について、更なるホスピタリティの向上が入場者数を増やすことにもつながると考えております。皆様の意見を拝聴しながら、今後、いろいろな改善を図っていきたいと思っています。具体的には、喫煙所の問題、あるいはゲーム開始前に、スタジアムのスタンドのコンコースでシートを広げて、場所を取り合っているというような光景が見られるので、何とか改善してほしいというような意見も承っております。そういったことに関しても、皆様のご意見をお聞きしながら、一つ一つ、確実に改善を図っていくつもりでございますので、そうした部分に関しましても、ご理解とご協力をお願いしたいと思います。
 今日はこれから柱谷GMと、フィンケ監督が熱い思いを皆様にご披露させていただくことになると思います。今シーズンもどうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。

「Talk on Together 2010 ~第1部~」

  • 出席者:柱谷幸一ゼネラルマネジャー(GM)
  • 進行:浦和レッズ・オフィシャル・マッチデー・プログラム(MDP) 清尾 淳氏

清尾氏:皆さんに直接お話しする機会というのは初めてだと思いますので、簡単にご挨拶をお願いします。

柱谷GM 柱谷GM:皆さん、こんばんは。「Talk on Together」にこんなにたくさんの方に来ていただきまして本当にありがとうございます。僕が今、こうやってこの場所にこういう立場でここに座っているというのは想像もしなかったことですが、自分が一番最初にプロとしてJリーグを迎えたチームのGMとして、そしてクラブの一員として、今シーズン、チームと一緒に戦えるということに対して、非常にうれしく思っています。1月1日から、2ヵ月間経ちましたが、今年からトップチームとアカデミーのマネジメントを担当することになりました。今日は短い時間ですが、ここまでのトップチームの状況と、これからの方向性、そしてこれからどうやってアカデミーをやっていくかという話を、この場所でさせていただきたいと思っています。よろしくお願いします。

清尾氏:ありがとうございました。皆さんから、クラブの方に寄せられた質問を見せていただきまして、それに基づいていくつか質問を用意しています。まず、去年までは解説者としてサッカーを見ていらっしゃって、埼スタにもよくおいでになったのは拝見していますが、解説者として去年のレッズを見ていて、感じられたことを聞かせてください。

柱谷GM:シーズンが始まって、前半戦は非常に、これまでのレッズとは完全にサッカーのスタイルが変わったことを、率直に感じました。これまではどちらかというと、個の能力を生かした、カウンターアタックのチームだったと思いますが、昨年は自分たちがイニシアチブを取りながら、ボールポゼッションして、隙があったらそこを攻めていく、そういうスタイルに変わったという気がしました。ただ、シーズン途中、ちょっと勝てなくなった時期というのは、Jリーグのチームはかなりスカウティングをやるので、逆にそのレッズのスタイルを相手に研究されて、かなりカウンターで失点したという印象が残っています。いずれにしても、スタイルを大きく変えた1年だったと思っています。

清尾氏:ちょうど、一回り当たったところまでは勝ちの方が先行しましたが、本当に、一回りしてから、勝負事ですから勝ち負けはあるにしても、正直、リーグ7連敗、それから天皇杯の初戦で地域リーグのチームに負ける、これはやっぱり尋常ではないと思うんですよね。監督、聞いているかな。あとで怒られないかな(苦笑)。僕たちもそうですが、サポーターの皆さんも屈辱を味わったと思うんです。その、負けが固まってしまった原因というのはさきほど言われた原因以外に何かあったのでしょうか。

柱谷GM:まず、最初に思ったのは、皆さんよく我慢したなということが(苦笑)、率直な印象でした。もっといろいろ騒いで、大変なことになるのではと、変な期待はしていましたが(笑)、逆に言えばレッズのサポーターの皆さん、ファンの皆さんの素晴らしところだと思ったのが、チームが改革をしている、そういう状況の中で、当然いろいろな痛みが出てくるのをサポーターの皆さんも一緒に共有しているんだなという事を、すごく感じました。
さっきも言いましたが、今、スカウティングがすごく発達しています。僕も京都で監督をやっているときは、結果的にはレッズに勝てなかったのですが、やはりビデオを撮って編集をして、対策を立てて1週間準備してそのゲームに入っていくわけですから、レッズの攻撃をしているときの守備の備えの甘さであったりとか、あるいはラインコントロールですね。相手のボール保持者がいい状況のときに、相手が裏を狙って走ってくる。レッズのディフェンスラインは高い位置を保っていますから、それに対してオフサイドトラップをかけようとすると、ジャストのタイミングで出てこられて結果的にキーパーと1対1とか、危ないシーンを作られてしまうという形は多かったと思います。特に皆さんも記憶にあると思いますが、さいたまダービー・大宮戦のホームゲームがまさしくそれだったんですね。僕もスタンドから見ていましたが、1点取られる前に1回、ラファエルに1対1のシーンを作られて、それは山岸が止めましたが、その後に同じようなシーンでディフェンスラインの裏を取られて結果的にラファエルに決められた。あれはもう、確実に相手はレッズのことを研究してきて、当然、ディフェンスラインの裏を狙っていたと思います。そういうところの対策をしっかりやっていかないと、相手にスカウティングされた場合は、非常に厳しくなっていくと思います。

清尾氏:時間があればもっと突っ込みたいんですけど、ちょっと前向きな話をすることにして。フィンケ監督はよく「ボールオリエンテッド」なサッカーっていうんですが、いつもどういうふうに日本語で書こうかなと思いながらも、書きようがなくて、そのまま書いちゃうんですけど、これ、どういうものかこの機会に説明してもらえますか。

柱谷GM:それはこの後、水内猛君がフィンケ監督に聞けば(笑)、それで確実な話が出てくると思いますが、自分たちがイニシアチブを取るということだと思います。ボールを保持しながら自分たちがゲームをコントロールしていくっていう。ボール中心に攻撃していくっていう意味だと思います。

清尾氏:今度は柱谷さんのお仕事の件ですが、選手の補強はGMの一番の役割の一つだと思いますが、そもそも柱谷さんの持論として、選手の補強はどうあるべきかというお考えを聞かせていただきたいのと、それと今季のレッズの実際の補強についてはどうだったのか、この2点を聞かせてください。

柱谷GM:最初に、今季の編成と補強に関しては、いろいろなメディアでも話をしていますが、1月1日からの契約だったので、今シーズンの編成に関しては、まったくタッチしていないです。ただ、ある程度、選手が決まっている中で、契約交渉、その部分に関しては、僕もやりましたが、編成に関してはまったく、今シーズンはノータッチになっています。
選手補強に関しては、皆さんご存じのとおり、JリーグのルールがFIFAルールに変わりました。移籍期間がオープンな時期でないと、当然、移籍はできないですし、契約が切れた選手に関しては、移籍金がゼロで移籍できるっていう。これまではJの中で縛りがあって、年齢によって係数が決まっていて、契約が終了した時点でもその係数をクラブが支払わないと、移籍ができなということでしたが、FIFAのルールになったことによって、これからは対応がどんどん速くなってくると思います。例えば、今、我々のクラブと複数年で契約している選手がいるとします。例えば3年契約の選手が1年たった後、残り2年の契約になっている時点で、さらにそこでチームとして必要だと思ったら、さらにあと3年の契約をして、5年契約にしていくとか、そういう早め早めの契約交渉をやっていかなくてはいけないと思っています。
それと補強や編成について、編成に関しては3つあると思います。1つはユースの選手を上に引き上げるところです。もう1つは新卒の選手、他の高校や大学から取ってくる。そして3つ目が他のチームからの移籍です。大きく分けるとこの3つになってきます。ユースのアカデミーの選手に関しては、3年間ずっと見ているわけですから、ユースの監督やアカデミーセンター長とも相談しながら、しっかりとした評価をして上に上げる選手を決めていきます。高卒や大卒の選手に関しても、スカウトチームとコミュニケーションをとってやっていくわけですが、先日、福岡の方にいって、福岡大学の永井選手と話をしてきました。その中で正式に文書でオファーを出して、彼に来年の編成の中に入ってもらえるよう、交渉してきました。
他のチームからの移籍に関してですが、これも2つあると思います。移籍がオープンになる7月の時期に、違約金を払って来てもらうのと、契約が完全に終わった時点で移籍金を出して来てもらうのと。その方法に関しては、今、ほとんどの選手たちが代理人と契約していますから、代理人としっかりコミュニケーションをとって、的確に補強していければと思います。

清尾氏:来季の補強の準備をされているということですが、今季の移籍に関していうと、高崎選手は期限付き移籍から復帰でしたが、他は、外国籍選手と、柏木選手ですよね。それで、7月のオープンのときに移籍での獲得をまた考えていらっしゃるのでしょうか。

柱谷GM:それはまず、最初の12試合、それをしっかり見ておかないと、今ここで、補強する、補強しないという話はできないですし、そのための準備っていうのはしっかりやっていきたいと思っています。

清尾氏:そういう場合に備えて準備はされると。

柱谷GM:はい。ただ、7月にJクラブ同士の移籍可能期間があります。それで例えば、J2でレギュラーの日本人選手を取ってこようとしたときには、もちろん契約は残っていますし、まして、J1の昇格争いをするようなレギュラーの選手を、相手チームが出してくれるようなことは、まずないと思います。それで、J2の試合に出ていない選手を取ってくるということを考えたときに、じゃあレッズで試合に出ていない選手と比べた場合、レッズの選手の方がレベル的には高いと思います。じゃあJ1の試合に出ていない選手で、そういう選手がいるかっていうところを探さなきゃいけないということと、その選手も契約期間が残っていますから、相手チームが出してくれないとそれは取れないわけで、その7月の移籍期間の中で、レベルの高い日本人選手を取ってくるのは、今の日本では非常に難しい作業です。フィンケ監督ともいつもそういう話をしています。

清尾氏:そうですね。でも例えば去年ですが、レッズからはアレックス選手が途中で名古屋に出て行ったわけで、今、聞こうと思ったのは、レッズに、チームに貢献した選手がこのところ、何人もJの他のチームに行くっていう状況があるのですけど、選手の入れ替えといいますか、そういうことに関しては柱谷さんは直接これにはタッチされていないですけど、一般的にはどういうふうにお考えでしょうか。

柱谷GM:一般的に、移籍というのは、所属チームと取りたいチームと本人の3者がOKを出さないと、移籍にならないわけです。先ほどのアレックス選手も、その3者が移籍っていうことに対して同意したということです。アレックス選手は移籍したい、名古屋は取りたい、レッズは出していいよっていうことで、移籍は成立するわけです。

清尾氏:どうしても、心情的に、頑張ってくれた選手に対する愛着っていうのは皆さんあると思うので、そこのところの残念さというのはどういう場合も否めないっていうことですよね。

柱谷GM:これはちょっと言っていいか分りませんが、京都で監督をやっているときに、J2で優勝して、J1に上がる年に、サンガでずっと中心選手としてやっていた選手がいましたが、その選手は怪我気味で、優勝争いをしているときに出られませんでした。それで、最後に怪我も治りましたが、チームも調子がよかったので、その選手は使わずに優勝して終わりました。その選手は、サンガにすごく貢献してくれた選手でしたが、その選手が結果的に次の年に他のチームに移籍しました。それはまあ、僕の戦術が気に入らなかったのか、他のチームに行きたかったのか、分かりませんが、その選手が移籍したのです。すごく貢献してくれた選手でしたが、そのときに僕のところに広報の人が封筒に入った手紙を持ってきたんです。「柱谷さん、こんなの来ましたよ」って。それを開けてみたんです。そうしたら、サンガのファンクラブの会員証ありますよね、それにはさみが入っていたんです。会員証っていったら、皆さん、命みたいなものですよね、サポーターにとっては。それがバツって切られて僕のところに送られてきて、その手紙を見たら、こういう選手を出した、大好きだった貢献した選手を出したから、私はサンガのサポーターになりませんって。そのときに広報のスタッフはやっぱりびびるわけですよ。でも僕がそのときに言ったのは、この人はサンガのサポーターじゃない、この人はその選手のファンであって、サンガのサポーターじゃないって言いました。すごく残念なことではあるし、失うのは悲しいことではありますが、これでクラブはめげちゃいけないとその広報のスタッフに言いましたし、全部のスタッフにその話をしたこともありました。選手を好きなことに間違いはないと思いますが、選手だっていつかは引退するわけですし、移籍することもあるわけですから、いつまでもクラブのサポーターでいてほしいと僕は思っています。

清尾氏:選手の移籍の話に関することですけど、やっぱり、やむを得ない事情というか、お互いの事情以外に、たとえばコミュニケーション不足とかってあるとそれは残念だなって思うのですが、今年のレッズのフィンケ監督と選手のコミュニケーションについてはどうでしょうか、僕は拝見していて、去年は練習中に英語の指示がすごく多かったけど、今年はドイツ語でしゃべってモラスコーチが通訳する、そういう場面がすごく多くなった気がするんですけど、その、コミュニケーションという点についてはどうなのでしょう。

柱谷GM:それも先ほど社長の方から話がありましたが、1月3日と4日でかなりの長い時間、話をさせてもらいました。そのときに一番最初にフィンケ監督に言ったのは、選手と監督が話すときに一番の最優先順位っていうのは、監督がどう思っているかっていうことを選手に分かってもらうことが一番大事なことで、それは英語であろうがドイツ語であろうが何語であってもいいんです、分かってもらえれば。でも、去年の状況の中で、フィンケ監督が英語で選手に話したときに、じゃあ日本人の選手たちが本当にその英語を理解できているかっていうと、恐らく全部は理解できていないんじゃないかと思います。それだったら、フィンケ監督が自分の母国語で、ドイツ語で選手たちに話や指示なり、コミュニケーションをとって、優秀な通訳のできるコーチがいますから、通訳を通して、それで自分の思いをはっきり選手たちに伝えた方がいいんじゃないかと言いました。今シーズンはほとんど、本当に簡単な日常的なことは英語でやっていますが、戦術の指示とか選手同士の会話とかはすべてモラスコーチが通訳をしてやっていますし、僕もフィンケ監督と話すときは全部、通訳を入れてやっています。その辺の意思疎通はしっかりやれていると思います。

清尾氏:長い時間、社長を交えて話をされたということですが、宮崎キャンプも指宿キャンプも行かせていただいて、いつも夕食が終わって出てこられるのを待っているんですけど、選手が全部出て行っても、監督と柱谷さんだけなかなか出てこなかったですよね。毎晩、ミーティングをしていたんですか。

柱谷GM:そうですね。練習後は必ず、フィンケ監督と話をしていました。

清尾氏:大原でも?

柱谷GM:大原でもやっています。

清尾氏:何を毎回(笑)?早く出てきてよって思っていましたが(笑)。

柱谷GM:そうですねえ、僕も監督をやって、ずっと指導者をやってきたので、トレーニングもいつも見ていますし、試合も見ていますから、トレーニングの話をして、どういう狙いでやっているのかとか、ゲームはどうだったか、という話もするし、僕はこういうふうに思いましたっていう話もするし、戦術的な話もします。選手補強に関しても話をします。
例えば、ドイツとかヨーロッパの情報は僕ら以上にフィンケ監督の方が多く持っています。コネクションもいっぱいありますから、フィンケ監督に情報集めをしてもらい、直接、いろんなクラブのGMと電話で話もできる人ですから、そこはフィンケ監督にやってもらって、こちらが情報をもらうと。逆に日本人の選手については、僕はほとんど知っていますから。J1もJ2も全部分かります。日本人選手の情報はフィンケ監督に伝えて、補強に関する話もしますし、高校生はあまり見ていませんが、大学生は去年、ほとんど見ているので、来季の補強に関する話もフィンケ監督ともします。とにかくいろいろな話をするようにしています。

清尾氏 清尾氏:去年と比べる必要はもうないんでしょうけど、中でも、ミーティングやコミュニケーションが深まったっていう気がするのですが、それを表に出す場合は、今、レッズはオフィシャルメディアも充実はしていますけど、やっぱり多くのメディアの皆さんにお願いをしなくてはいけないと思うのですが、今シーズンから大原での取材対応といいますか、メディアの皆さんに対する対応も変わって、報道規制が強くなったというような見方もよくされていますが、今の取材対応のシステムとどうしてこういう風に変更したのかという目的を教えてください。

柱谷GM:一番大きな目的は安全対策です。以前、大原サッカー場で鉄の扉が倒れてサポーターの方がケガをされたことがありましたが、以前の取材体制は駐車場の中に記者の方がいて、選手が動く度に一緒に動きます。当然、そこには帰る選手たちの車もあります。そこで事故が起こってはいけないということで、駐車場の中で安全を確保をしなくてはいけない。そこに入らないという形でメディアの方には、ご協力をしてもらうことになりました。その代わりということではありませんが、練習場のピッチに近いところにメディアゾーンというのを設けさせてもらって、選手たちは着替えが終わったあとに必ずそのメディアゾーンを通って、駐車場に行って車に乗って帰ります。ですから規制されたという形で言われているかもしれませんが、逆に安全の確保と、全部の選手が段階的にですが、メディアゾーンを通るので、逆に取材しやすくなったと僕は思っています。

清尾氏:前は通るけどしゃべらずに行っちゃうということはないですか?

柱谷GM:それは記者さんのここ(腕を叩いて)じゃないですか(笑)。

清尾氏:取材対応の話になったので、ぜひこの場だから聞きたいということがあるのですが、この間の土曜日、非公開でやった練習試合、ありましたね。

柱谷GM:マリノスとのゲームですね。

清尾氏:どっちが非公開にしたのかという(笑)、それがどっちかっていう話を聞きたいのではなくて、僕らも見させていただけなかったので、内容について差し支えない範囲でどんな感じだったのかを教えていただくと、今日来ていただいた皆さんのお土産になるのではないかと。
(拍手)

柱谷GM:あまり詳しく言うと、もうマリノスと練習試合ができなくなるので…。

清尾氏:相手のことは、ともかくとして…。

柱谷GM:まず、ケガ人が一次キャンプ、二次キャンプとすごく出て、すごく心配して、ケガ人が多くて大丈夫かと思っていましたが、梅崎と山田直輝以外は全員、戻って来ました。それ以外の選手はほとんどケガもないです。もちろん戻って来たばかりで、ゲーム勘が戻ってきていない選手はいますけど、全員がプレーできる状況になったことは、非常に心強いと思います。スピラノビッチがずっとケガをしていて、この日もチームに帯同しましたが、ウォーミングアップで少し不安があるということで。それはおそらく徳島戦のときに途中から出てあまりいいプレーができなかったので、途中から出ることに対して不安があったのかもしれませんが、コンディション的にあまりよくなかったので、プレーはしませんでした。今は完全にチームに合流して、ゲームをしています。非常にいい状況でチームも仕上がってきていると思います。

清尾氏:練習試合を終えて、柱谷さんとしては「よし」っていう手応えは感じられましたか。

柱谷GM:…。(会場笑)そうですねえ(笑)。いやー、もう、よし、でしょう(笑)。
(会場笑)

柱谷GM:今、すごく調子がいいのが、宇賀神とセルヒオです。特にセルヒオなんか、びっくりするくらいのプレーをしています。

清尾氏:ぜひ、シーズンを通して、あのコンディションを維持してほしいですよね。

柱谷GM:特に、中盤から前の選手層がすごく厚くなったので、例えば原口とか、もちろん柏木もいますし。ポンテも調子いいですし、前線のポジション争いがすごく激しくなっている部分があって、非常にピリピリした中でのトレーニングが出来ています。シーズンを通して、当然ケガ人が出たり警告累積が出たりしますから、その中でも、これだけ前の方にいいタレント性を持った選手がそろってきたのは非常に心強いと思います。峻希がいま、ケガで少し長くやれていませんが、岡本という2種登録の選手、彼が今、非常に高い評価を受けていて、センターバックもできますし、右サイドバックもできる。そういう若い選手を積極的に使っていくというところに関しては、フィンケ監督はすごい勇気があると僕自身は思います。

清尾氏:今、名前が出た宇賀神選手、セルヒオ選手、それから岡本選手、みんなレッズユース出身なので、古くから見ている僕としても相当うれしいですけど…。

柱谷GM:そうやってつながるだろうと思って(笑)。これからアカデミーの話につながっていくのだろうと。
(会場笑)

清尾氏:GMはアカデミーも担当されるということで、一番、皆さんから多く質問があったのは、これまでレッズは小学生のチームを持っていなかったんですね。浦和地区に優秀な少年団も多くありますし、さらにそこから選抜されたFC浦和というチームが大きな存在で、山田直輝選手や永田拓也選手もFC浦和のメンバーで、そのあとレッズのジュニアユースに入っているっていうことですが、今年、全日本少年サッカー大会のレギュレーションが変わって、市内の選抜チームという形で出られなくなって、FC浦和が作られなくなったということなんですね。これによって、今後のレッズの小学生への対応、育成方針とかそういったことは変わるのでしょうか。

柱谷GM:2つあると思います。1つはFC浦和方式で、トレセン活動的な形で、週の中ではレッズのスクールといいますか、そういう形式で集めてセレクション的にトレーニングを高いレベルでやって、週末はそれぞれの自分の所属クラブに戻ってゲームをやり、また週中ではレッズに集まってくるという方式。それともう1つはジュニアを作る。この2つがあります。それぞれ、いいところと悪いところがあるので、それをしっかり検証していきながら、いい方を採っていきたいと思います。何もやらないということではなくて、どっちか必ずやって、行動を起こしていきたい。時期については自然な流れでいくと、今年の4月か9月か、来年の4月か。そういう時期にせざるを得ないと思っています。

清尾氏:小学生への対応は何らかの形で今年、変わるということですね。

柱谷GM:そうですね、その時期が4月になるのか9月になるのか、来年の4月になるのかというのはまだ分からないですが、アクションは起こしていきたいと思っています。そして、今、スカウトの対象年齢が下がってきています。小学校4年生、5年生、6年生のところで判断をするのは非常に難しいところではありますが、その年代の中でもスーパーな選手は5~6年生のときでも、すごくスーパーです。そういう選手たちが他のクラブに流れるようなことは、浦和の、さいたまの、あ、さいたまにももう1チームありますが…。やっぱり浦和の財産みたいなものが外に流れていくのは我々にとっても寂しいことですし悲しいことです。そういう選手たちが流れないように、彼らが将来、レッズの選手としてプレーをしてもらえるような、そういう環境を提供したいなと思っています。

清尾氏:小学生の話から次はいきなりトップに飛びますけど、トップで活躍できる選手の育成という点では指導者同士のコミュニケーションというのは大事だと思うのですが、その辺については今後、どうでしょうか。

柱谷GM:1月のところで、1回、フィンケ監督とトップチームのコーチ、アカデミーのコーチ全員で、ミーティングをやりました。まず大事なのは、クラブの理念というか考え方というのを、トップチームからアカデミーの全員の指導者がしっかり知っておくということです。それを共有していくという意味で、ミーティングをやりました。去年までは、ほとんどやっていないということを聞いて、フィンケ監督もこういうことは大事なことなのでこれからも続けていかなくてはいけないと言っていました。トップチームの監督が今、トップに上がっているアカデミーの選手たちをどう評価しているか、どこがよくてどこがよくないかっていうこともはっきり言ってもらいました。それによってアカデミーのコーチたちに、自分たちはこういう選手たちを育てていかなくてはいけないんだ、ということを分かってもらえました。これからも定期的にそういう全体のミーティングをやっていきたいと思っています。

清尾氏:去年、ちょっと横から見ていて、そのコミュニケーションが前に比べて不足しているかなと思ったのですが、前に戻すというか、より強めていくということで、少し安心しました。時間がだいぶ過ぎてしまいましたが、柱谷さんはレッズの初代キャプテンですけど、いわゆる三菱サッカー部出身ではないですね。

柱谷GM:はい、日産自動車です(笑)。
(会場笑)

清尾氏:今まで、ゼネラルマネジャーでレッズにいらした方、横山さん、森さん、中村さん、皆さん、三菱サッカー部出身の方です。そういう意味では、レッズの身内というかOBではありますけど、外部から来たという側面もある初めてのGMなんですよね。そういうところで、これまでのGMの方々とまた違う役割なり責任なり、あるいはスタンスなり、あるのかなと思いますが、その辺をお聞かせいただけますか。

柱谷GM:僕が日産自動車からレッズに移籍したときに、当時、役員だった清水泰男さんに一番最初に言われたことがあるんです。それは「レッズに染まらないでくれ」ということでした。「お前はお前のやり方で、プロフェッショナルな部分をレッズの選手たちに態度で示してくれ、これがプロなんだということを示してくれ」と清水さんに言われました。それで自分は2年半、レッズでプロとしてプレーした、それに似た部分はあると思います。僕の強みというのは、選手としてレッズでプレーしたこと、その後レイソルでも2年半プレーしたこと、その後4年間、フリーで外からサッカーを見た、そして、山形で監督をやって、またフリーになって、京都で監督をやってまたフリーになって、栃木で監督をやってまたフリーになったこと。JFLとJ2とJ1、それぞれのカテゴリーで監督をやって、小さいクラブなのでそこでチームのマネジメントも全部やってきたので、外で見てきた、外で経験してきたことを、レッズでの仕事で生かしていけると思っています。
おそらく皆さん職場でもそうだと思いますが、長くずっといると自分たちの中でそれが普通のこととか常識だと思ってしまいがちな部分があります。僕らみたいに外からパッと入って来ると、それは違うんじゃないかって思うときがあります。僕がやれることは、それは違うんじゃないか、こういう方法があるんじゃないか、なんでこういうふうにしないのっていうことを指摘していくことだと思います。そういうふうにいうと、ある案件に関しては今までずっとこうだったからっていうような返事が返ってくる。そこを変えていくのが僕の仕事でもあるし、これからやっていかなければいけないことでもあります。

清尾氏:今のお話で、16年前、選手として来られたときのことを思い出すんですけど、契約は皆さんプロでもなかなかプロっぽくなかった選手が多かった中で、柱谷さんはプロとしてやっていらっしゃった、清水さんがおっしゃったように染まらずにいたと思うんですけど、なかなか多勢に無勢というか、そういうプロ意識を多くの選手に浸透させるのはなかなか難しかったのではと、今、思い出しました。
ご自分ではなかなか言えないと思うんですけど、Jで2チーム、監督として3チーム、ご自分ではなかなか言えないと思うんですが、レイソルではJリーグ昇格に貢献され、山形では残念ながら3位でしたけど、とにかく大躍進されて、京都ではJ2で優勝。栃木でもJ2に上げるという、それぞれのところで結果を出されてきたと思うんですけど、このレッズでの2010年のシーズンの目標を最後にお集まりの皆さんに一言、お願いしたいと思います。

全体 柱谷GM:明確に今シーズンのトップチームの目標は、監督とも話をしていますし、社長とも話ができています。Jリーグとヤマザキナビスコカップ、天皇杯、いずれかの大会でタイトルを取れるように、優勝できるように頑張っていこう、ACLの出場権を獲得できるように、頑張っていこうということです。トップチームは、この目標に向かってやっていきます。フィンケ監督を全面的に信頼して、すべてフィンケ監督に任せています。ピッチ内で誰を使ってどうやって戦うか、戦術面に関して、それはもうフィンケ監督が最終的な決定権を持って、責任を持ってやっていますし、僕は信頼して彼にゆだねています。ただ、さっきも言いましたけど、コミュニケーションをとりながら自分の考えというのも伝えながら、シーズンをやってきたいと思っています。
アカデミーに関しても、今、レッズは山田直輝とか原口元気とか、アカデミーから育った選手たちが活躍していますので、これからも継続して、そういう選手を出していけるように、地元出身の選手が活躍できるような、そういうクラブにしていければいいと思っています。
長いシーズンになると思うので、当然、いい時期ばかりではなくて、苦しい時期もあると思いますが、そういう苦しい時期にこそ、僕らがしっかりチームを支えて、ファンの方、サポーターの方と一緒に、1年間、やっていきたいです。

清尾氏:予定された時間を少し過ぎてしまいました。短い時間でしたけど、柱谷さん、分かりやすいお話でありがとうございました。これで第一部は終わらせていただきます。

柱谷GM:ありがとうございました。

「Talk on Together 2010 ~第2部 トークショー~」

  • 出席者:フォルカー・フィンケ監督 モラス雅輝コーチ
  • 進行:水内 猛氏

フィンケ監督 水内氏:こんばんは。みなさん元気がないです。こんばんは!ここからは第2部となります。司会進行を務めさせていただく水内猛です。通訳はモラスコーチにお願いします。みなさん、よろしくお願いします。時間もあまりないので、いろいろな話を聞いてみたいので、フィンケ監督に早速お話をうかがっていきたいと思います。
まず、フィンケ監督は、昨年日本で初めて指揮を執ったわけですけど、日本で指揮を執り、浦和レッズというチームの指揮を執って1年間戦った、率直な感想をお聞かせください。

フィンケ監督:(日本語で)コンバンハ。昨年のシーズンで私たちには3つの期間がありました。1つ目の期間では、みんなが驚くほどのとても優れた結果を残すことができました。その次の2つ目の期間では、残念ながらいい結果をまったく残すことができなくなってしまいました。分析をした結果、さまざまな理由がありました。とても暑い天候だけではありません。何人かの選手のケガもありました。この期間で私たちはとても残念なことに、Jリーグで7連敗をしてしまいました。そしてその次の第3期間で私たちは再びある程度優れたパフォーマンスを見せることができるようになって、再び結果もついてくるようになりました。そして、Jリーグの第32節の時点で本当ならばACL(AFCチャンピオンズリーグ)の出場権を得ることのできる順位まで戻ることができていたのです。
どのような状況であろうと、敗戦はいつも痛いものです。しかし、正直なところ、私が最も大きな怒りを感じたのは、第33節のアウェイでの京都戦でした。なぜならば、私は何が何でもこのACL出場権を得ることができる4位という順位をキープしたかったからです。この試合が行われたのは丁度若い選手たちがケガをしている時期でした。原口元気も山田直輝もスタメンには入っていませんでした。このアウェイでの京都戦では、とても多くの経験溢れる年上の選手たちがピッチに立っていたのです。私は20年以上にわたってプロの指導者として仕事をしていますが、あの京都戦のような敗戦を忘れることは絶対にないでしょう。なぜならば、あれだけのたくさんの年上の経験溢れる選手たちがいたにもかかわらず、自分たちが優位に進めていた試合で勝利をおさめることができなかったからです。ですので、順位表での結果から言えば、昨シーズンは私にとって、まったく満足感を与えてくれるものではありませんでした。なぜなら、私は何があってもACLに出場したかったからです。最終節のホームでの鹿島アントラーズ戦、私は正直なところ、選手たちのパフォーマンスに関してはとても高く評価しています。とても優れた形でゲームを展開していました。そしてアントラーズにしてみれば、少し幸運も手伝って勝利をおさめたところがあると思います。昨年のことについてですが、私は最終的に自分たちが得た順位に関しましては一切満足していません。しかし、チームの将来のことを考えれば、必ず行なわなくてはいけなかったことを私たちは昨年することができたわけです。これは、今後このチームが発展していくためには、どうしても必要なことでした。正直なところ、去年になってこのような戦術的な転換を行うのには遅すぎるというのが私の気持ちです。ですので、最終的な結果と順位に関しましては、私は一切満足していません。ただし、将来に向けての土台作りはできたということ、そして実際のところ早急に行なわなくてはいけなかった戦術的な転換を始めることができて、それによって今年はゼロの状態ではなくて、土台ができあがったところから仕事を継続できることになりました。このような状況に関しては、私は十分に評価できると思っています。
最初の質問に関しては、とても長くなってしまいましたが、これが答えです(笑)。

水内氏:いやいや。(今日の自分の仕事は)楽な仕事だなぁと思って、聞いてました(笑)。
先ほど、柱谷GMと清尾さんの話にもありましたけど、「ボール・オリエンテッドなプレー」。皆さん聞いたことありますか?僕も初めて聞きました。素敵な言葉だなと思ったのですが、本当にすごくよかったときのプレーってあったと思うんですけど、「ボール・オリエンテッドなプレー」について、できれば皆さんに分かりやすく説明していただければと思います。それすれば、きっとレッズの試合を見て、「こういうプレーなのか」と感じることができると思います。

フィンケ監督:正直なところ、このような質問をいただいたことに関して感謝したいと思います。なぜならば、多くの人たちと話し合いをして私が抱いた印象は、この『ボール・オリエンテッドなスタイル』が何なのか、理解してない人が非常に多いということでした。手短にそのスタイルについて説明したいと思います。 このプレースタイルは、私の母国であるドイツのブンデスリーガでは、比較的遅い段階で導入されました。他のヨーロッパのリーグでは更に早い段階で導入されていたスタイルです。
ドイツでは1990年、1991年、1992年あたりまで、とても伝統的な3-5-2のシステムのサッカーが展開されていました。その中の『3』は、3人の守備の選手がいることですが、その内の中心の選手は多くの自由を与えられた、いわゆる『リベロ』と言われていた存在の選手でした。
しかし、それ以外のヨーロッパの国々、例えばスペインやポルトガル、フランスなどの国々では、ドイツよりも更に20年ほど前からこのプレースタイルが実践されていたのです。そして世界的に有名なサッカー大国である、南アメリカのブラジルやアルゼンチンでもそうでした。これらの国々では、ドイツとは違う形でのサッカーが実践されていました。
そのひとつの特徴は、比較的早い段階から4バックが導入されたことです。4バックによる守備、そして守備のときでも、攻撃のときでも、ボールの近くで数的優位を作り出すというのがひとつの特徴です。そしてボールがどこにあるかということをピッチに立つ全員の選手が理解して状況を把握して、それによって正しい形でボールサイドに向けてスライドしていくこと。これらが、このプレースタイルのいくつかの特徴だと言えます。
そして、ひと昔前の伝統的なプレースタイルですと、どこのチームでも守備の中に1人の多くの自由を与えられた選手が存在していました。そして、この選手は周りの選手をカバーするだけ、自分ではマークを持たなくていいという考えを持った選手が非常に多かったのです。それから攻撃に関しても、いかにもという伝統的なゲームメーカーがいました。この選手は、攻撃には大きく絡みますけど、守備は一切しなくていいという、そういうスタンスを持ったプレーヤーが多いというサッカーがあちこちで実践されていました。これが、私たちの言っているひと昔前の伝統的なプレースタイルでした。
しかし1990年代の終わりの頃に、フランス代表チームがとても優れた結果を残すことができるようになりました。そして、このフランス代表チームは約10年間にわたって、結果を残すだけではなくて、とても優れたサッカーも展開していたのです。これによって、それまでひと昔前の伝統的なプレースタイルを実践していた国々でも、このフランス代表を目標にしよう、フランス代表から学ぼうというスタンスをもって、このモダンなスタイルがいろいろなところで実践されるようになったのです。そして、今日のヨーロッパのクラブサッカーを見渡しますと、正直なところ、このようなプレースタイルを実践していないクラブはほぼ存在していないと言えるでしょう。それほど現時点では、ヨーロッパではこれがひとつの常識となって実践されているプレースタイルなのです。
そして私たちは、昨年、初めてここでこのような戦術的な転換を行ないました。この戦術的な転換の作業、このプロセスに関してすべてがクリアになって、完結している、終わっていると言うことはできません。しかし、昨年この戦術的な転換を始めたのは事実ですし今年もこの戦術的な転換を継続して、しっかりとした形で続けていきたいと思っています。
この新しいプレースタイルではすべてのポジションにおいて、それまでの伝統的なプレースタイルとはまったく違う戦術的な動きが求められます。それは守備のときにも、攻撃のときにも言えます。1つの分かりやすい例として、ひと昔前の伝統的なプレースタイルでは、ピッチの上で『このディフェンスの選手は相手のこの選手をマークする。そして、この選手はこの相手の選手をマークする。そして、その間に、1人の自由を与えられた選手が存在していて、この選手はカバーしかしない』。そのような形で守備が展開されていたのです。しかし、これは私たちがいつもお話ししているボール・オリエンテッドなサッカーではありません。しかし長年にわたって一昔前のプレースタイルでプレーしてきた選手たちにしてみれば、このような戦術的な転換が非常に難しいものであるということは、みなさんにもご理解いただけるのではないかと思います。しかし、私たちは時間をかけてこの転換の作業を行なっていきたいです。
しかし、勘違いしないでください。ボール・オリエンテッドなプレースタイルは、イコール攻撃的なサッカーというわけではないということです。ボール・オリエンテッドなスタイルで攻撃的なサッカーを展開することもできますし、守備的なサッカーを展開することもできます。大切なのは、ボールの近くで数的優位な状況を作り出すということ。これが1つのキーワードです。それは攻撃のときにも、守備のときにも言えます。

水内氏 水内氏:分かりました?分かりましたか?これがボール・オリエンテッドです。
昨年のシーズンの春先のいいときには、アグレッシブにボールに行って、ボールを奪って速く攻めるというのもそうだし、後半戦でも引いて守る、川崎戦なんかそうですけど、引いて守るけども、そこから取って攻撃するというのも大きな特徴なのかなという気がするんですけど、そういうこと…ですよね?

フィンケ監督:この私たちが実践しようとしているボール・オリエンテッドなプレースタイルでは、3つのゾーンで相手にプレッシャーをかけに行って、相手からボールを奪おうという守備戦術的な連動した動きを実践できます。
1つ目は、とても攻撃的なプレッシングになるわけですが、相手の陣地で積極的にボールを奪いに行くことです。そして、このような形での、とても攻撃的なスタイルを実践するためには、まず、すべての選手たちが走れなくてはなりません。豊富な運動量が求められるからです。それから、2人のセンターバックの選手がとても足の速い選手でなくてはなりません。なぜならば、彼らの後ろでカバーしてくれる選手は誰1人としていないのですから。この2人のセンターバックの選手が相手のFWをしっかりとマークしないといけないわけです。
それから、2つ目のやり方。これは自分たちの選手が連動して動いて、相手に対してプレッシャーをかけていくプレッシングをセンターラインから行うことです。相手の陣地で相手の選手がプレーしているときには、自分たちはボールを奪いにいきません。ただし、センターラインを越えてきた時点で、自分たちが連動してボールを奪いに行く。これが2つ目のやり方です。
そして、最後に3つ目のやり方。これは特に攻撃力の高い対戦相手にやるパターンですが、相手が自陣に入ってから初めてボールを奪いに行くということです。その際に大切なのは、9人のフィールドプレーヤーがボールの後ろにいて、連動してボールを奪いに行くということです。これは、とても効果的なやり方になりますし、相手の出方によって、自分たちはこの3つのマネジメントスタイルの中でパターンを変えていくことも重要となるわけです。
そして、今年の準備期間に入ってから、私たちは4バックの機能を改善していこうということで、たくさんの練習を積んできました。今年の準備期間で私たちにとってとても大切だったのは、正しいバランスを見つけることでした。なぜならば、昨年も、私たちはこの4バックを機能させようと努力はしてきましたが、全員がそのように動いていたわけではありませんでした。一部の選手たちのプレーが、何度も試合が進むにつれて無意識的にひと昔前の伝統的なプレースタイルに戻ってしまった。それによって、同じ守備陣の中でも2つのプレースタイルが存在したことがあったのです。

水内氏:はい。そうなんですよ。
また昨年の話になってしまいますが、そう言いながらも、パスをつなぐというところ、人が動くところも、プレースタイルが変わったと皆さんも思われていると思いますが、そういう中で、ゴール前で守られたときに、なかなか攻め込めない、シュートが打てない、ドリブルで仕掛けない、またバックパスだ、という印象の強い試合もいっぱいあったと思いますが、縦パスがなかなか入らない、裏に出ないというところの打開策として、どういうところを監督は考えていますか?

フィンケ監督:私たちが、ピッチのどこで、どのような状況でボールを回そうと、私たちがボールを回している目的は、ボール回しの美しさを皆さんにお見せすることではありません(笑)。私たちの目的は、ボールを回すことによって、相手の組織的な守備の中でどこかでスペースが生まれる、ギャップが生まれる、そしてこのギャップが生まれた時点で自分たちが素早くアグレッシブに縦に行こうと、あくまでこの縦に行くことの準備として私たちはパスを回しているわけです。これが私たちのやり方ですし、パス回しのためのパス回しではありません。すべての選手たちは相手のギャップが生まれるようにパスを回しているのです。
世界的に見渡しましても、今日では2つのプレースタイルが存在しています。一部の監督には、まずは守備をしよう。自分たちの陣地に戻ろう。そして自分たちは積極的にボールを奪いに行かなくていい。相手がボールを回しているときにミスをすれば、そのボールを奪って1本か2本のパスで前線にボールを出して、素早くシュートに持ち込もう。そのときには、多くの選手が攻撃に絡む必要はない。多くの選手は自分たちのところに戻って、守備をしていれば十分だ。こういう考えを持っている指導者がいるのも事実です。
しかし、プレースタイルに関しては、もう1つの考え方があります。それは、相手のミスを待つだけではなくて、自分たちで建設的な形でゲームを組み立てていこう。自分たちでゲームを支配していこう。ゲームの流れを自分たちで作り出そうというものです。自分たちが積極的にボールを回す。もちろん、ボールを持っているときにどういう形でボールを回すか工夫が必要になってきます。しかし、自分たちがボールを回すことによって、建設的な形で得点チャンスを作り出していく、そしてそれをゴールに結びつけていくという形です。これを私たちは実践しようとしているわけです。
なぜならば、守備を固めて相手がミスするのを待つやり方は、通常はそれほど強くないチームの戦術です。彼らは守備を固めて、相手のチームがミスをしてくれることを願っている。ただし、必ず相手のチームがミスをしてくれるとは限りません。
長い間このサッカーの世界で仕事をしていると、多くのことを聞くことができます。中でもヨーロッパの多くの人間が言っていることを、ここで1つお伝えしたいと思います。それは、私たちが目指しているこの建設的なプレースタイルを実践しようとすると、場合によっては敗戦するときもあるかもしれない。なぜならば、せっかく作り出した得点チャンスをしっかりと得点に結びつけることがなかなかできなかったから。もしくはパスを回しているときにミスをしてしまったから。ただし、どのようなプレースタイルを実践したとしても、必ず勝てるという保証はない。そしてもし、このような建設的なサッカーをしていけば、勝利をおさめることができなかったとしても、スタジアムを訪れた皆さんのハートを掴むことはできる、と。なぜならば、建設的なプレースタイルならば、毎週毎週どのような練習を積んできているのか、そして自分たちで何かを作りあげる、自分たちでアクションを起こそうという姿勢をみんなに示すことができるから。というふうに、よく言われています。
ここではっきりと皆さんにお聞きしたいです。皆さんは何を求めますか?この浦和レッズというクラブはJリーグを代表するクラブですよね?だからこそ、建設的な形でサッカーを展開していくのは正しいやり方ではないですか?今後も自分たちが行動を移すことによって、自分たちがゲームを支配していく、ゲームの流れを作っていく、自分たちが建設的なプレーを見せていく。そして、今後も若い選手たちをトップチームに取り入れていく。そして、その若い選手と年上の選手たちが一緒に協力しあいながらコンビネーションサッカーを展開していく。ゲームを支配する。このようなことを、私たちは求めているのではないのですか?そして、結果を残していく。しかも長期間にわたって。これは、私があちこちでいろいろな方と会話をした結果、思ったことですが、これが、浦和レッズの正しい道であると自分は確信しています。
なぜならば、現時点で、この日本サッカー界の中での浦和レッズの位置づけを考えると、いつまでも相手のミスだけを待つようなサッカーをしたいですか?大切なのは、私たちが積極的に動いて自らゲームを支配していくこと。そして、自分たちのフィロソフィー、哲学をしっかり持つこと。これが今後の将来のためになるのではないでしょうか。私はそう思います(会場から大きな拍手)。
全体 私がJリーグのさまざまなチームを見たところ、1つとても優れた例があります。それは鹿島アントラーズです。アントラーズはJリーグの歴史の中で最も多くのタイトルを取ることができた、大きな成功をおさめることができたクラブです。アントラーズはジーコがいたときからブラジル式のボール・オリエンテッドなプレースタイルを実践しています。私たちのサッカーとは若干違うところはあります。しかし、彼らもゾーンで守っています。そして、この4-4-2をベースとしたブラジル的なプレースタイルを長年にわたってずっと実践してきたのです。ですから、あのクラブには、チームプレーに関してのひとつの哲学というものが存在しているのです。
そろそろ私たちも自らのプレースタイルに関しての哲学を持つ時期に来ているのではありませんか?私たちは長期的に成功をおさめたいのです。そのためには、自分たちの哲学が必要です。自分たちはどのようなプレーを求めているのか。自分たちはどのようなプレーを実践したいのか。そのようなしっかりとした考えを持って、それをピッチの上で具現化していかなくてはいけません。もちろん、このような戦術的な転換、そして哲学を作りあげることは、今日明日でできることではありません。そのためには、時間も必要です。しかし、私は日本に来て、できる限りいい結果を残すように、そしてこの戦術的な転換を素早く進めることができるように毎日努力しています。昨年、皆さんと共に一年間を過ごすことができましたが、もちろん痛い時期もありました。しかし、多くの方々はとても優れた『根気』を持って、このチームを支えてくれました。だからこそ、私はできる限り早く、皆さんにもっといい結果、それからもっといいプレーを、お見せしたい。とても大きな喜ばしい嬉しい体験を皆さんにプレゼントしたいと思っています。それが私の考えです(会場から拍手)。

フィンケ監督 水内氏:昨シーズン、全試合うまくいったわけではないと思いますし、もちろんうまくいかないから試合にも負けることもたくさんあったと思いますが、今シーズン、2年目になりますし、ボール・オリエンテッドなプレーもそうですが、選手たちに本当にフィンケ監督のサッカーが浸透してきてると思います。
そんな中で、新加入選手であるサヌ、柏木陽介、スピラノビッチ、宇賀神友弥、期限付き移籍から戻ってきた高崎寛之、岡本拓也、そういう彼らを含めたここまでの仕上がり具合というのはいかがですか?

フィンケ監督:クラブが柏木という選手を獲得することができて、本当に大きな喜びを感じています。私は何度も映像を見ていますし、彼の試合も見ていました。そして、とても優れた選手であると私は思いましたし、どうしてもこの選手が欲しいと強い希望をクラブに伝えていたからです。このような優れた選手を獲得することができて、本当によかったと思っています。山田直輝と同じように、柏木はとても質の高いコンビネーションサッカーを展開するのに適している選手とも言えるでしょう。チームが一丸となって、1つのプレースタイルを実践するときには2つのやり方があります。1つは自らのプレースタイルを実践することができるように育てた選手を下から引き上げること。そして、2つ目は外部からそのようなプレーを実践できる選手を獲得してくることです。
それから、このプレースタイルを実践するためにとても大切になってくるのが、両サイドのサイドバックのポジションです。そして、このポジションに関しては、今シーズン、大学から宇賀神を獲得することができました。宇賀神は今回の準備期間、とても優れたプレーを見せています。そして2度の大ケガから堤も復帰することができ、チームの練習に合流することができています。ですので、このサイドバックのポジションに関しましても、昨年とは違って、本当の意味でのポジション争い、競争状況が生まれているということです。
サヌとスピラノビッチに関してですが、この2人に関しては、いくつかの小さなケガがあって、今回の準備期間では何度か離脱してしまいました。それはとても残念なことだと思っています。ただし、2人はチームにとって大きな助けになってくれるでしょう。それだけのポテンシャルを持った選手です。
しかし、私にとって今年とても大切だったのは、すべてのポジションにおいて、本当の意味でのレベルの高い競争が生まれる、競争原理状況が生まれるということです。ポジション争いが生まれることによって、チーム全体のレベルを引き上げることもできますから。そして、新しい選手を獲得することによって、そのようなすべてのポジションに競争が生まれるという環境を整えることができました。これが昨年から今年にかけての、とても大きな1つの要素だと思います。なぜならば、昨年の始めに私がこのチームを引き継いだときには、一部の選手が自分たちが主力であるのは当たり前だろうというスタンスをもって毎日の練習に臨んでいたからです。
しかし、そのような状況で突然私のような1人の新しい監督が来た。そして、この新しい監督は、すべての選手が次の週末の試合に出るために、1週間しっかりとした形で仕事をしなくてはいけない、練習で優れたプレーを見せなくてはいけない、と言ったのです。月曜日に選手たちが練習場に来て、次の週末はどうせ自分は試合に出るから、と思っているのは間違った考え方です。大切なのは、毎週毎週勝負だと思って、ポジション争いをすること。このようなメンタル的な新しい考え方を持つということ、メンタル的な転換というものを、私たちは昨年から行なわなくてはなりませんでした。昨年から今年にかけて、それをいい形で実践することができたと思っています。これはとても大切な要素なのです。毎週のように選手たちがポジションを争うという環境をもう一度整えなくてはいけなかったのです。

水内氏:そういう意味では、サヌ選手はいろんなポジションができるということを聞いていますが、サヌ選手がどこに入るかということによって、そのポジションの選手たちがまた危機感を感じながらやるかもしれませんし、サヌ選手のプレーは、僕もまだランニングしか見たことないんですけど(会場から笑い)、サヌ選手はどの辺で監督は使いたいのでしょうか。

フィンケ監督:そうでしたね。例の、とても多くの秘密が存在していたらしい横浜での試合はご覧になっていないですからね(笑)。
現時点でサヌは少し小さなケガがあって、チーム練習から離脱しています。実は今年に入って、毎日の練習の雰囲気が去年と比べさらに変わりまして、とてもアグレッシブなプレーがあちこちで見ることができるようになりました。それによって、サヌはケガをしてしまったのです。ですので、2、3日間離脱してチーム練習に合流していませんが、もうすぐ彼は復帰してくると思います。
ちなみに、サヌはすべての攻撃のポジションでプレーすることができます。そして、一部の報道では彼が左サイドバックでプレーできるとありましたが、それは事実ではありません。彼は右のサイドバックでならプレーできます。

水内氏:そこ、大事なとこです。
本当に練習場から厳しくやることによって、競争が生まれますし、サヌは、たぶん誰かに削られたってことなのでしょうけど、先ほどサイドバックの話が出ましたが、昨年は開幕から細貝がスタメンで左サイドバックをやることが多かったですけど、今年は宇賀神が入ったのもありますけど、例えば細貝は、今年はボランチで勝負するってことになると思いますけど、そういったポジション争いが大事ということですか?

フィンケ監督:この例を見てもよく分かることですが、昨年とはまるで違うライバル状況が私たちのチーム内に生まれています。細貝は今年から主に彼の本職であったボランチのポジションで勝負をすることになるでしょう。この守備的なミッドフィルダーというポジションで、彼は将来性のある選手です。まだまだ若いですし。そして直接のライバルは鈴木啓太と阿部勇樹になります。ただし、この3人が同時にピッチに立つということはなかなかないでしょう。よって、今後はとても優れた選手がベンチに座ることもあるでしょう。そして、このことは他のポジションにも言えることです。私たちのチームに所属しているすべての攻撃の選手が同時にピッチに立つこともありえないでしょう。ですので、何人かの選手はベンチに座ることになるでしょうし、このような健全な競争が生まれることによって、チーム全体のレベルが上がることを私は願っています。
本当のプロの選手の仕事がどういうものなのか、それをしっかりと理解しなくてはいけません。プロの選手の仕事は、不満を抱えていた場合、毎日の練習で監督に対して圧力をかけることです。自分はこんなに素晴らしいプレーをしているんだ、次の試合こそ自分をメンバーに入れてくれ。そういう健全な競争をやっていくことによって、監督に対してプレッシャーをかけていく。これが正しいやり方です。自分が不満を抱えているからといって、新聞の記者に対して余計なことを言ったり(会場から拍手)、記者に対して涙を流しながらいろんなことを話したり、アリバイを作るのはプロの仕事ではないでしょう(会場から大きな拍手)。
(日本語で)ニホンゴ、トテモ、ムズカシイデス。だから、私は、あちこちで書かれていることを全て理解することはできません。それでも、私のところにはたくさんの噂、意見、情報が入ってきます。ですので、私はここで皆さんにはっきりとお話をしたいです。ここで宣言しても構いません。自分にとって最も大切なのは、選手の年齢とか、その選手を個人的に好きか嫌いか、そういうものではありません。私たちが生きているこの世界は、プロサッカーの世界です。だから、すべてを決定づけるのは選手のパフォーマンスです。それだけです。選手たちのパフォーマンスが優れていれば、彼らが試合に出ることになるでしょう。そして、パフォーマンスが優れていなければ試合に出ないこともあるでしょう。しかし、年齢とか個人的な関係、そんなことで物事を決めつけるようなことは、絶対にありません。ですので、一部の試合に出ることのできない選手があちこちに行って、『うちの監督は若い選手ばかりを好んで年上の選手は嫌いらしいんだ、だから自分は試合に出られなくなってしまったんだ』、もしくは、『自分はとてもひどい扱いを受けているんだ』、そのようなことを言ってしまうのは非常に情けないことです。大切なのは毎日のパフォーマンスだけです。
ちなみに、山田暢久は今年の開幕戦、アウェイの鹿島アントラーズ戦で再びスタメンの一員として出場するでしょう(会場から拍手)。彼は年上の選手ですが、このような選手に私が唯一言えること、それは私が彼を1人の選手としてとてもリスペクトしているということです。

水内氏:フィンケ監督は若い人が好きなんだという印象を持っている方もたくさんいたと思いますが、たぶん今の言葉を聞いて、そうではない、と感じた方もいらっしゃると思います。ヤマもそうですし、平川の例もそうですけど、平川は昨年悪かったときもよかったときもありますけど、今シーズン非常にいいパフォーマンスをしているという状態にあります。

フィンケ監督:平川の件はとてもいい例だと思います。平川は昨年、私たちが戦術的な転換だけではなくて、練習の仕方、練習の内容に関しましても一昨年に比べてさまざまなことを変えたわけですが、その転換に追いついていくのが少し大変だったようです。しかし、彼はとても優れた選手であることは間違いありません。ただし、昨年に関して言えば、大切な時期に何度もケガを繰り返していて試合に出られないという、厳しい現状がありました。
しかし、今年に入ってから7週間、彼は一度も練習を休んだことはありません。そして現時点で、平川の状況はとてもいいです。筋肉系のケガも何もありません。そして彼が持っている素晴らしいポテンシャル、とても優れた瞬発力というのを毎日の練習で確認することができます。平川の体調がこのまま優れた状態でキープされることを願っています。そうすれば、このサイドバックのポジションに関しては、とても優れた選手が今年から再び戻ってきた、とも言うことができるわけですから。

水内氏:本当にね、メンバー一人一人聞いていきたいんですけど、たぶん聞いていたら開幕を迎えてしまうので(笑)。いろいろ聞きたいこともありますが…。

フィンケ監督:私はすべての質問について答えますが(笑)。

水内氏:時間の問題もあるので(笑)。電車がなくなっちゃう(笑)。
先ほどの、橋本代表も柱谷GMもそうですが、チームとしての目標、そして監督としての目標をやはり皆さんも聞きたいと思うので、ひとつ言っていただければ。

フィンケ監督:昨年、私たちはとても困難な作業であります戦術的な転換を行ないました。そして私たちはこの仕事を今年も続けていかなくてはなりません。私はいい結果を残したいです。そして、とても大きな山を再び登ることができるようになりたいです。
このチームは2006年、2007年、とても高いレベルで結果を残すことができていました。しかしその後、主力の選手が固定化されていたこともありまして、2007年以降、彼らのパフォーマンス全体が下り坂を迎えたわけです。このようなチームのパフォーマンスに関してサイクルがあるということは、世界的に見渡しても当たり前のことです。もちろん、例えばバルセロナのように、とてもお金があって、とてもレベルの高いところでプレーしているクラブならば、それまで活躍していた主力選手、例えばフォワードのエトーをインテルに放出して、インテルからイブラヒモビッチを獲得することができます。しかし、それを実践するためには、ものすごくたくさんのお金が必要なわけです。そのようなところと、私たちを比べることはできません。しかし私たちは、このチームは2007年以降、下り坂を進んでいたこともありましたので、さまざまな準備を昨年行なって、今年から再びこの山を登ることができるようになりたいのです。
そして、国際的に見てとてもレベルの高いクラブでは、優勝をおさめた、もしくはとても優れた結果を残すことができた直後に主力の2人、3人を意図的に入れ替えます。なぜならば、そのような主力のメンバーの入れ替えを行なわないと、多くの選手たちが、「自分たちは主力でしょ、試合に出場して当たり前でしょ、昔、多くの実績を残したし、自分たちがスタメンで出るのは常識だよね」という、プロらしくない安心感を持ってしまいます。このようなことが起きないために、意図的に2人、3人の選手を入れ替えていって、チーム全体に新たな刺激を与えていく。このようなことは世界的なビッグクラブならば、当然のようにやっていることです。
このような安心感はとても危険なことなのです。1つのチーム、もしくは1つのクラブがとても大きな成功をおさめることができたときに、クラブの人間が選手たちに対して、優勝することができたからということでとても高い年俸を支払うようになってしまったり、複数年契約を与えてしまいます。そうすると、これらの選手たちは安定感というものを手にしてしまいます。そうすると、全体的にパフォーマンスが落ちてきてしまう。なぜならば、彼らには優勝するまではあったハングリーさがなくなってしまうからです。大きな成功を収めることができたときに活躍していた主力選手がクラブを離れることになると、多くの観客が涙を流します。しかし、チームのレベルを維持、もしくは将来的にさらに高いレベルに持っていくためには、とても大切な、やらなくてはいけないことなのです。
しかし、同時に私たちのクラブに関して忘れてはならないのは、2006年、2007年にとても大きな成功をおさめることができた選手たちの中には、昨年の戦術的な転換を共に行うことができて、今年一丸となってまた大きな山を登ろうとしている選手がいるということです。これも忘れてはなりません。私たちがこの大きな山を登るために必要なのは、若い選手の力だけではないのです。この戦術的な転換をすることができた、質のある、経験ある選手たちも、この山を登るために必要なのです。
そして、私個人の目標としては、何が何でもACLの出場権を得たいです。どのような道を選んだとしても、この出場権を得ること。これが私の目標です(会場から拍手)。

水内氏:ACLは、リーグ戦3位まで、そこにもし入らなければ天皇杯を取らなければいけないこともあるので、そういう順位に常にいるということは、優勝も近いということですから、その辺は皆さんも期待が持てると思いますし、ボール・オリエンテッドがうまくいけば、間違いなくいいサッカーが見られると思います。その辺は、是非期待していただければと思います。

フィンケ監督:ここにとても大きな木があるとします。そしてもし、私たちがこの木に登ることができるのであれば、すべての木に登りたいです。そしてもし、そこで1つのタイトルを取ることができれば、とても嬉しいことですし、私たちがいつもタイトルを目指して仕事をしているのは当たり前です。
しかし、収穫をするためには、前もって種をまかなくてはいけないのです。そして、しっかりとした準備をして、将来的に美味しいものを食べるために収穫をする。しかし、食事は何もしなくて生まれるわけではありません。前もって準備をしなくてはなりません。
前もって、私たちは優勝しますよと言ったからといって、必ず優勝できるわけではありません。そのためには、たくさんの投資を行なわなくてはいけませんし、とてもハードな仕事をこなさなくてはいけないのです。でないと、結果はついてきません。

全体 水内氏:たぶん、皆さんは「優勝するぞ」っていう言葉が欲しいのかもしれませんが、そればっかりが現実ではないかもしれませんし、もちろん皆さんが優勝を願っているのはみんな一緒だと思います。
最後に、監督からファン・サポーターの皆さんへメッセージをお願いします。

フィンケ監督:私たちのクラブ、浦和レッズのサポーターが、とても熱狂的な形でいつも私たちを応援してくれていたこと、そして、厳しい期間でもしっかりと根気をもって、チームの将来を信じて応援してくれたこと、そして数多くの声援をいつもいただくことができたこと、私はこのようなことを1日たりとも忘れたことはありません。選手たちにしてみれば、戦術的な転換だけではなくて、毎日の練習の仕方、仕事への取り組み方、練習内容など、さまざまなことが昨年一気に変わりました。
ですので、彼らにしても、そう簡単な状況ではなかったわけです。しかし、私たちは昨年という転換の年をしっかりと進むこともできましたし、新たな土台を作って、今年の年に臨みたいと思っています。私は皆さんと一緒に、この年に入って優れた結果を残していきたいと思いますし、今後も一丸となって、この浦和レッズのチームのために尽くしていくことができればなと考えています(会場から大きな拍手)。

水内氏:短い時間の中で、本当に聞きたいことがたくさんあったと思うんですけど、その辺は徐々に聞いていきたいなと。僕も番組の方で「ボール・オリエンテッド」使っていきたいなと。ということで、皆さんもお疲れ様でした。フィンケ監督、そして通訳をやってくださったモラス雅輝コーチ、お疲れ様でした。

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