ONLINE MAGAZINE/REDS VOICE
2009. 8.11 Vol.63
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「Talk on Together 2009」を開催
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大住氏:10年前というのは?

フィンケ監督:今日のイベントは公の場で行われているものですので、非常に高い確率で、メディアの方がいらっしゃっていると思います。実際に、私は今まで、さまざまなメディアの方と仕事をしてきたわけですが、残念ながらすべての方々が私と友達になったわけではありません(笑)。この国に来てからもなぜか、正直、理由はよく分からないですが、私の友達ではないメディアの方が数人、います。
私は一度も、そのメディアの方を傷つけたことはないと思います。現実的に私は日本語が話せないので、彼らを傷つけることもできません(笑)。しかし、このような記者がいるという状況があるからこそ、ある意味、ここで何を言うかは気を付けないといけないと思います。なぜかというと、私の発言について、部分的に取られて都合のいい風に書かれてしまうことがあるからです。
PHOTOしかし、私はこのクラブで今まで仕事をしていた前任者について批判をするつもりは一切、ありません。私は今日の練習に備えて、昨日、ある試合の映像を見直しました。それは2008年11月8日、アウェイでのコンサドーレ札幌戦です。2-1の結果で浦和レッズは勝利を収めることができたわけですが、この試合を見て、そして私たちの今シーズンの試合を見比べると、私の考えでは、チームは改善されていると思います。私が信じているサッカーというのがだんだんと実戦でできるようになったと思います。しかしだからと言って、これは私の考えであって、前任者を否定や批判するものでは一切、ありません。このことは皆さんにもご理解いただけるのではないでしょうか。
そして一つ、はっきりと言わなくてはいけないことだと思いますが、私はこのチームは正しい道を進んでいると思います。チーム力は徐々に改善されてきていると思います。決定力不足という話は先ほど、ありましたが、それも改善されてゴールを決めることができるようになって、結果もついてくるのではないでしょうか。もちろん、このような新しい時代を作り上げる期間というのは、ある意味、痛みを伴うものです。苦い経験もするかもしれません。ただ、これらの経験をしていくことで、チーム全体が改善されて、とても素晴らしい時代というのを作り上げることができるのではないでしょうか。そしてこれもとても大切なことかもしれませんが、このチームに所属している選手たちの中でも特にコアの選手たちはこの新しい道を支援しています。徐々に年上の選手が増えてきたということもありますので、年下の選手を徐々に入れていかないといけないということを、彼らも理解していると思いますし、浦和レッズの成功のために仕事をしていると思います。浦和レッズの成功を妨害しているような選手がコアにいるとは思えません。逆に私たちがこのコアの選手たちとしっかりと仕事をすることによって、いい方向に進んでいると思いますので、将来的には、とても素晴らしい浦和レッズというチームを見ることができるのではないでしょうか。
今、皆さんにお話ししたことを、実は、昨年の終わりに、当時、このクラブの責任者であった方々にもはっきりと伝えました。彼らが実際に私に対して話してきたのは、「改革の年」だということです。クラブ、チームを含めて、さまざまなことを改革していかなくてはいけない、だからこそぜひ、あなたに来てほしいという話を聞きました。そのときに彼らが私に対してはっきり言ってきたのは、今年は優勝をしなくてもあなたは敗北者というふうに見られることはまずないでしょう、なぜかというと私たちはそれを求めていないからです、新しいチームの土台を作ってほしいのです、そういうことを言われました。そして私は監督としてこのクラブの契約書にサインをする前に、2試合を生で見ることができて、それ以外の試合も映像で、すべてドイツで観戦しました。さまざまな分析をした結果をこのクラブの当時の責任者だった方々にはっきりと伝えたわけです。
例えば年齢の件、全体的にチームの平均年齢が上がってしまっていること、多くの選手が彼らのキャリアのハイライトを終えてしまっていること、徐々に体力的に落ちてきてしまっていること、このようなことをすべて伝えました。そのときに彼らが自分に対してはっきり言ってきたのは、それでも構いませんということでした。新しいチームを作り上げなくてはいけない時代なのです、だからこそあなたに来てほしいのですということで、強い意志を感じることができました。それゆえ、私はこのクラブの契約書にサインをしたわけです。これは厳しい事実かもしれませんが、その当時、責任者だった方々が私のところに来て、これだけのお金をあげるから必ず優勝してくれと、言ってきたことは、一切ありません。時間を与えるから新しいチームの土台を作ってほしいと言われたのです。もし、当時、クラブの責任者であった方々が、私に対して、お金をたくさんあげるからとにかく優勝だけを目指してほしいと言われていたら、私はこのクラブの監督になることはなかったでしょう。
昨年の秋、私が、日本に1週間来たことは皆さんご存じだと思います。あのときにこの国のサッカーについてさまざまな情報を得て、ドイツに帰国しました。もちろん、私もできる限り、早く優勝したいです。何年間も待つのではなく、できる限り、早い段階でタイトルをもたらしたい。これは私の考えです。しかし、そのようなチームを作り上げるためにはどうしても、時間が必要です。そこで、忍耐があるかどうかが問われるのではないでしょうか。

大住氏:ここにいらっしゃっているファン・サポーターの皆さんも、今年、レッズが変わり始めているという、その方向性について、喜んでいるのではないでしょうか。ですから、先日のエスパルス戦後、0-1で負けて、リーグ戦3連敗、公式戦4連敗だったわけですが、その後も、「PRIDE of URAWA」というコールをサポーターが中心になって、最後は、スタンドの全体一体となり、その気持ちをチームに伝え続けたのではないでしょうか。
多くの人が、フィンケ監督の進めている改革の方向というのを支持されていると思いますので、ぜひ、早く『ゴール』までたどり着いてください。我慢しますけど…。我慢しますけど、早い方がいいですよね。

フィンケ監督:もちろん、公の場で約束をすることについては非常に、気を付けなければいけないんですが…(苦笑)。しかしさまざまな報道を見ていると、浦和レッズというのはドイツのバイエルン・ミュンヘンのように、毎年、優勝をする義務のある常勝軍団であるような印象を受けることができます。いろんな方に質問をしたのは、「常勝軍団なのですか」「実際に浦和レッズはJリーグができてから何度、優勝したのですか」ということです。誰に聞いてもいつも答えは同じでした。ただ、一回である、と。
浦和レッズが優勝したのは2006年です。Jリーグができたのが1993年です。ということは最初に優勝するまで13年間、かかったことになります。私がここで皆さんにお約束できるのは、2度目の優勝をするまでには13年間はかからないということです。

大住氏:力強い言葉、ありがとうございました。僕の方でお寄せいただいた質問についていろいろ聞かせていただきましたが、こういう機会ですから、監督からファン・サポーターの皆さんに直接おっしゃりたいことがあれば最後にお願いします。

PHOTOフィンケ監督:皆さんに間違った印象が生まれないようにはっきりとここでご説明したいことがあります。実は私たちはここ数ヵ月間、ヨーロッパの非常にレベルの高いチームでプレーしていたある選手と交渉をしていました。私たちはこの選手を、ぜひ獲得したかったわけです。非常に優れた選手で、しかも若い選手でした。現在、ロシアのモスクワでプレーをしている選手ですが、ヨーロッパのレベルの高い檜舞台でプレーをしてきた選手でした。そして私は彼らと交渉をしたわけですが、残念ながらこの選手を獲得することはできませんでした。なぜかというと、彼がモスクワで稼いでいる基本給というのが、Jリーグで稼ぐことのできる給料よりもずっと上回っていて、私たちが持っている予算では彼を獲得することができなかったからです。
非常に厳しい現実かもしれませんが、国際的なサッカー選手の市場というのを冷静に見つめ直さないといけないと思います。一昔前のように、完成された選手、もしくは代表選手として非常に優れたパフォーマンスを見せてきた選手をJリーグに連れてくることは、残念ながら、ほぼ不可能に近い状況になりました。リトバルスキーやウーベ・バイン、ギド・ブッフバルト、このような代表でプレーをした選手、それから元フランス代表の選手などもプレーをしていたと思いますが、このようなカテゴリーの選手たちをJリーグに引っ張ってくることはできません。なぜかというと、彼らは大金を求めてアラブの諸国に行ってしまうからです。一昔前のように、Jリーグに行けば大金を稼ぐことができる、引退する前にお金を稼ごうという考えで日本に来る選手は現時点ではもういないわけです。すぐにチームにとってとても大きな戦力になる、完成された選手を引っ張ってくるのはもう不可能です。
そしてJリーグの関係者だけではなく、サポーターの方もこの現実は理解しなければいけないことだと思いますし、ある意味、非常に厳しいことかもしれませんが、国際的な市場でのサッカー選手の値段というものがどんどん上がってしまっていて、通常のJリーグのチームではこのような選手を買うことができなくなってしまっています。プレミアリーグに代表されるような、ヨーロッパを代表する5つのブランドネーションというものがあります。イタリア、イングランド、フランス、ドイツ、スペイン、この5つの国でプレーをしているような選手を買うことはまずできません。ここでも年俸があまりにも高くなりすぎていて、同時に移籍金も高くなりすぎてしまっています。日本のクラブがこのようなクラブでプレーをしている選手を獲得することはほぼ不可能です。
しかしこのような状況であるからこそ、今、浦和レッズが進もうとしている、選手を育成するという道、そしてこの方針が正しいものだと思います。それから忘れてはならないのは、今後、アジアのサッカー選手の市場をしっかりと見つめていかないといけないということです。アジアにも、さまざまな優れた選手がいると思います。将来性にあふれる選手たち、そしてアジアの選手というのは比較的安い金額で獲得することができるわけです。残念ながらヨーロッパの市場というのは全体的に高くなりすぎてしまっているので、日本に選手を連れてくるのはよほどのことがない限り、できません。しかし、アジアの選手ならば十分に可能なのではないでしょうか。ですから私たちは今後、選手を育成するということと、アジアの市場から優れた選手を獲得する、特に22歳から25歳の、ある程度、経験のある優れた選手、そしてまだまだ成長することができる選手を獲得する、これがとても大切なやり方だと思いますし、この国でのクラブというものはこのような方針にしていかないと、長期的な意味での成功を得るのは非常に難しいのではないでしょうか。
これは他のクラブにも言えることかもしれませんが、ヨーロッパでプレーをしている完成された、即戦力としてプレーすることができるような優れた選手を獲得することはほぼ不可能です。そして18歳から22歳の若い選手をヨーロッパから連れてくるということもそう簡単ではありません。なぜかというと彼らは自分のプレーを見てほしいという希望があります。ですから、世界のサッカーの中心であるヨーロッパを離れたくないという希望を持っている選手がほぼ、全員になるわけです。しかし、私たち浦和レッズはヨーロッパのクラブと提携関係を結んでいます。他のJリーグのクラブもこのような提携関係を作り上げていくというのも一つの案かもしれません。ヨーロッパの提携クラブで、トップチームでまだ試合に出場することができないような18歳から22歳の選手を1年間、もしくは2年間という期間限定で日本に移籍させることも考えられるかもしれないからです。このような提携関係がないと、若手の選手をこの国に引っ張ってくるのは非常に難しいでしょう。このような若い選手が日本に来れば、日本でプレーをしている若手にとっても、とてもいい刺激になるのではないでしょうか。なぜかというと、ヨーロッパのクラブに所属している選手と毎日一緒に練習をすることによって、お互いにさまざまなことを吸収して学ぶことができるからです。私は正直なところ、Jリーグがさらにヨーロッパに向けて窓を開けて、ヨーロッパのサッカーともっとしっかりとした関係を築くことができれば、非常に喜ばしいことだと思っています。

大住氏:ありがとうございます。最後には、フィンケ教授の国際サッカー論を聞くことができました。モラス雅輝コーチ、素晴らしい通訳でした。ありがとうございました。 フィンケ監督と、何よりも浦和レッズというクラブに幸運がありますように。今シーズンの後半、また楽しみに見たいと思います。どうもありがとうございました。

フィンケ監督:(日本語で)スミマセン・・・。
時間を延長してしまいまして、すみません。(第2部終了)

※掲載内容は、実際の発言の主旨を変えない範囲で、変更している箇所があります。
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