試合の“熱さ”について、サポーターの存在を横においては語れない。
もしかしたらそれは、浦和レッズに関してだけなのかもしれないし、筆者だけの感覚なのかもしれないので、こう言い換えよう。
清尾に浦和レッズの試合の熱さを語らせるなら、サポーターを抜きにはできない、と。

試合の記憶は、その内容だけでなく、当時の調子やお互いの力関係などの状況などによって濃くなったり、薄くなったりする。鹿島戦で最も熱かった試合を挙げよと言われたら、即座に2004年10月23日のアウェイ戦を思い浮かべる。それを詳述する余裕がないので「初の3,000人バスツアー」とだけ言っておこう。
記憶に残る鹿島とのホームゲーム、とリクエストされたら少し迷うが、2008年4月13日の埼スタに落ち着く。もう17年前で、筆者が考えるレッズ史区分では三期ほど前になる。

この前年。レッズはACLに初めて出場しただけでなく、日本勢として初めてそのタイトルを手にした。Ｊリーグでは第21節から首位を維持しており、アジアとリーグの二冠達成は目の前だった。
その金字塔建立を阻んだのが鹿島だった。ACL優勝を決めた11月14日現在で、リーグ３試合を残して勝ち点６差をつけていた相手だった。2006年は３試合を残して３差だった２位を下して優勝したというのに。
鹿島が何かズルをしたわけではなく、レッズの自滅であることは明らかなのだが、その腹立たしさもすべて心の中で鹿島にぶつけて年をまたいだ。

当時ACL優勝クラブには翌年の出場権が与えられたから、2008年は今年こそACLとＪリーグの二冠を獲ると意気込んでスタートした。
ところが開幕２連敗をしてホルガー オジェック監督が解任された。２試合で監督を辞めさせるのは、クラブが自らの失策を認めるに等しいが、そんな評価など気にしている状況ではなかった。
幸い、コーチから昇格したゲルト エンゲルス後任監督の下、チームは結束し連敗は２でストップ。それどころか第３節から３連勝し、４月13日の第6節を迎えた。
相手の鹿島は開幕から５連勝で勝ち点15の首位。レッズは４位タイまで順位を上げており、リーグ優勝を目指すには絶対に勝たなければならない相手だった。

南ゴール裏の鹿島サポーターは、選手入場前の時間帯に、何やら紙か布をアルファベットらしき形に大きく切り抜いたようなものを並べ始めた。ところが文字が重なったり、裏返しになっていたり、置く場所が間違っていたりして、言葉になっていなかった。
ただ、長く応援してきたレッズサポーターが見れば、ピンときただろう。1996年11月２日、旧国立競技場で行われた浦和ー鹿島戦で、やはり鹿島サポーターは同じような時間帯に、同様の方法で文字をスタンドに掲出した。今のＪリーグで実現することはできないだろうが、レッズへの悪罵だった。そのときは文字を読み取ることができたので、そんな言葉を公の場所で披露することに大きな顰蹙を買っていた。

96年のその試合は延長で鹿島が勝利し、レッズは優勝の可能性が遠ざかり、鹿島はその後Ｊリーグを制した。
それに味をしめたわけではないだろうが、鹿島サポーターは12年後に埼スタで同じことをやろうとして失敗したのだった。もしかしたら、その言葉の「完成」に抵抗したサポーターもいたのかもしれない。

そんな一幕があって、選手入場の時間がきた。
勝てば首位との差を「３」に詰められる、序盤の大一番。レッズサポーターは、このシーズン初めてのビジュアルサポートを敢行。北ゴールを赤く染めた中に、白い「URAWA」の文字を描いた。しかも一文字ずつ黒で縁どりがされており、赤地にくっきりと文字が浮かび上がっていた。選手にアピールする言葉としてはいたってシンプルだが、その完成度は当時のレッズサポーターで、すなわちＪリーグで最高だった。

慎重な立ち上がりで入ったレッズは、やや受け身で前半を終えたが、後半から出場した永井雄一郎が49分に先制。その後、鹿島の反撃をGK都築龍太はもちろん、全員が体を張ってはねのけ、終了直前に永井がＧＫへのバックパスをカットして追加点。終わってみれば２－０の完勝だった。
終了の笛が鳴った瞬間、エンゲルス監督は両こぶしを握り締め、メインスタンドに向かって雄叫びを挙げた。この勝利をどれほど欲していたか、よくわかった。

前年チャンピオンであり、宿敵とも言える鹿島に勝利。２連敗から４連勝というＶ字回復でリーグ優勝に向けた追撃態勢を固めた。開幕2試合というＪリーグ史上最速の監督交代劇に、「レッズ終わった」と、内心ほくそえんでいた他クラブもあっただろう。サポーターが「浦和レッズここにあり」というダンマクを掲げていたが、まさにそういう「待たせたな。レッズは終わってねえぜ」という心境だった。
試合後に「We are DIAMONDS」を聞くのはシーズン２度目だったが、この日はひときわ高く、大きく響いて聞こえたのは、54,450人という入場者のせいだけではなかったと思う。

やり切った表情のサポーターを撮影している筆者の耳に、ゴール裏のレッズサポーターが発した言葉が飛び込んできた。帰り支度する鹿島サポーターに向かって言ったものだろう。
「お前ら、闘う前から負けてんだよ！」
それで、試合前の茶番を思い出してしまったが、それはともかく。
そう。戦績はかなり鹿島に負け越しているが、それでもレッズサポーターが負けていると思ったことはない。もちろん筆者の感覚にはかなりのバイアスがかかっているだろうが、それを思い切り差し引いても、その思いは変わらない。
2022年からは7試合連続ドローという、せめぎ合いが続いている。それに決着をつける最後の1点は、ホームの力を最大に、最大以上に発揮して我々が取る。
9月20日はそんな日にしたい。