ONLINE MAGAZINE/REDS VOICE
2009. 3. 3 Vol.61
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「Talk on Together 2009」を開催
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大住氏:第1節ではアウェイにて鹿島アントラーズと対戦します。今日これだけたくさんの方がいらっしゃると、鹿島のファン・サポーターの方もいらっしゃるかもしれません(笑)。トレーニングマッチでは4バックで、4-4-2というようなシステムが多かったと思うのですが、だいたいそういうやり方で行く予定でしょうか?

フィンケ監督:実際に私たちは練習試合でも4-4-2でやってきましたし、そして私の方もさまざまな情報を得て、鹿島についていろいろ情報を得ることができました。鹿島はブラジル式の4-4-2を実践しているわけですし、非常に組織力の高いいいチームだと思っています。この会場にいらっしゃいます鹿島のスパイの皆様、私たちも同じように4-4-2のシステムで臨むことになると思います。しかし、前もって一つお話をしておきたいことがありますけれども、今日のサッカー界で成功して結果を残すためには、対戦相手へのリスペクトというものが非常に大切だと思っています。ですから私としても鹿島のことをリスペクトして、そしてその上で彼らのことを分析させてもらいました。

PHOTO大住氏:少し話を変えて、フィンケさんのご自身のことをお聞きしたいのですけれども。40代まで学校の先生をされていたという、非常に変わった経歴をお持ちですが?

フィンケ監督:私は喜んで高校の教師になりました。そして高校の教師として仕事をすることに非常に大きな喜びを感じていました。政治学、歴史学、そしてスポーツ学、この3つの科目を勉強して実際に学校に行っていたわけです。もしかしたらご存じかもしれませんが、1960年代から1970年代のドイツというのは、非常に大きな意味でさまざまな改革が行なわれる年でもありました。
特に学校のシステムだけではなく社会全体がどんどん変わろうとしていました。そのときに私も大学に通って、さまざまな勉強をしていました。私にとっては、学校の教師になることはほぼ決まっていたことで、それ以外の職業は一切考えることができませんでした。
なぜかというと、このようなどんどん変わろうとしているドイツの社会を、若い世代に伝えていきたい、何が変わろうとしているのか伝えていきたいという強い希望を持っていたからです。私自身は、非常に高い確率で、あまり年俸の高くないサッカー選手にしかなれなかったと思いますので、そのような選手になるならば、学校の教師として次の世代の教育に携わった方がより大きな喜びを感じることができるだろうと感じて、そのために高校の教師になりました。

大住氏:高校の先生という経歴が、今のプロ選手を指導する、プロのサッカーの中で戦っていくということの中で、たくさん役立っていることがあると思いますが、それはいかがでしょうか?

フィンケ監督:実際に長い間、高校の教師として仕事をしていました。そのことは40代の半ばになってプロのサッカー選手を指導する仕事をする上で非常に役立ったと思っています。高校でも、私は毎日のように若い生徒たちと接していましたが、彼らは毎日のように試験を受けているわけでしたし、毎日が彼らにとっては、ある意味での勝負だと言っていいからです。
高校生として見れば、自分の人生がどうなっていくのだろう、これから成長するのだろうか、試験に受かるのだろうか、受からないのだろうかなど、「アビトゥーア」という資格がドイツであります。ドイツの高校の卒業試験でこれにクリアすれば、自動的にドイツの大学に入れるシステムです。この最終的な試験に受かることができるか、高校の生徒たちも毎日のようにさまざまなプレッシャーと戦っていたわけです。毎日毎日、非常に貴重な体験をこのような若い生徒たちとすることができました。後々プロのサッカー指導者になって、若い選手と接するとき、もちろん若い選手たちというのもさまざまなプレッシャーを受けているわけです。場合によっては6万人が入るスタジアムの中でいいプレーをしなければいけないわけです。それは彼らにとっても大きなプレッシャーなのです。
しかし、私としてみれば長い間高校の教師として仕事をしてきた経験がありましたので、教育的な意味でさまざまなことを学ぶことができて、今若い選手たちと接するときに役立っているのではないかと思います。

大住氏:高校の教師をされていたときの話は、今年のオフィシャルハンドブックのインタビューで聞きまして、その中で詳しく載っています。今年60歳になられて、一番心配しているのは、初めて祖国を離れられて日本での生活に慣れないのでは、何か不都合なことがあるのでは、文化の違いに戸惑ったり、いらだったりすることがあるのではないかということです。それは大丈夫ですか?

フィンケ監督:皆さんにまずお話ししなければいけないことは、皆さんは必ずハンドブックを買ってくださいということです(笑)。まだ皆さんにお話ししていないことがたくさん書かれています。私はこのハンドブックが売れた場合でも実際に利益を得ることは一切ありません。私たち(フィンケ監督と大住氏)はビジネスをしているわけではありませんので、私がこのことをお話ししたのはビジネスのためではなく、友好的な関係を築くためです(笑)。
先ほどの質問についてですが、もちろんドイツと日本にはさまざまな文化の違いというものが存在しているわけです。しかしこのような文化の違いというものがなかったら、私は今ここにいることはなかったでしょう。
非常に長い間プロのサッカー指導者として仕事をしてきまして、実際にクラブの監督としてもう一度仕事をすることになるのであれば、まったく違う環境において、まったく知らない文化の中でやりたいと思っていました。ですので、初めてこのクラブからのお話をいただいたときに、非常に興味深かったのは、まったく違う環境、そして文化の中で仕事をするのはどういうことになるのだろう、どういう経験をすることができるのだろうということでした。実際に皆さんもご存じだと思いますけれども、私は一度日本に来て、ホームの試合、それから大阪での試合、この2試合を実際に見ることができました。そこでさまざまなことを感じることができましたし、もちろんファン・サポーターの皆さんが一生懸命このチームを応援していたこと、そしてとても素晴らしいエネルギーを感じることができたこと、そして日本を旅行しながら日本のさまざまな面を知ることができました。
このような経験からこのクラブで仕事をするならば非常に面白いかもしれないということを感じました。実際のところ、他の国の代表監督として2010年のワールドカップ・南アフリカ大会に行くというやり方もあったわけですが、この国で仕事をすること、このクラブで仕事をすることに関して非常に大きな魅力を感じることができました。そのためにここで仕事をすることになりました。もし魅力を感じていなかったら、ここに座っていることはないでしょう。

大住氏:日本の文化の中で、新しく興味を持たれたことはありますか?

PHOTOフィンケ監督:もともと高校で歴史を教えていたので、この国の歴史とか伝統や文化に非常に興味があります。しかし、今ここで皆さんにお話ししたいのは、通常の生活の中で感じることができるものです。
私はよく選手たちに伝えています。日本がいかに素晴らしい国であり、みんなが恵まれていることを理解しなくてはいけないと。何で我々がそう思わなくてはいけないのかと聞かれたらこう答えるでしょう。
「皆さんはこの国の食文化がいかに素晴らしいか、理解していますか?そして、いかにこの国に存在している温泉が素晴らしいものか理解していますか?」とです。
今回もキャンプなどを通じてさまざまなものを見ることができましたが、この国の通常の皆さんが体験している、もしくは経験することができている食文化の素晴らしさは、本当に世界を見渡してもトップレベルだと思います。このような素晴らしい、バリエーションが豊富な、さまざまな食卓が当たり前にあるという環境は、ヨーロッパ全体を見渡してもなかなかないと思います。なぜこの国の若い人たちがこの素晴らしい日本食ではなくて、国際的なジャンクフードを食べに行くのかがよく理解できません。

大住氏:日本の食事の中で、口に合うものはありますか?

フィンケ監督:実際に日本でさまざまな日本食にトライしています。非常においしいものがたくさんあったわけですけれども、特にうどんなどの麺類や味噌汁がすごく気に入っています。それに、この国には何という素晴らしいお豆腐があるのか、こんな質の高いお豆腐は初めて見ましたし、これだけの種類があるということを初めて知ることができました。
そしてもし、机の上に置かれてしまったら、私がどうしても食べなくてはいけないものは天ぷらです。実際に天ぷらを出されたら私は断ることができません(笑)。私の妻は日本に来て、日本での生活を楽しんでいるわけですが、彼女も日本の生活だけではなくて特に食生活をとても満喫しています。特に私はこの国に来て素晴らしいと思っているのは、朝ごはんについてです。ヨーロッパでは、朝というのはなかなか暖かいものを食べる習慣がありません。しかし、日本に来ると非常に暖かい、素晴らしい日本の朝食を食べることができます。皆さん、いかにこの朝食が素晴らしいか、ぜひもう一度考えてみてください。
この日本という国の朝食は素晴らしいと思います。朝から暖かいものを食べることができる、生理学的に見てもいかに体に優しいことなのであるか、皆さんも知るべきだと思います。最近ようやくマンションに入ることができました。これで長いホテル暮らしが終わったわけですけれども、私のマンションの中で、毎日のように最も活躍しているのは、ご飯を炊くことができる炊飯器です。しかし、ここで一つ、批判的なことを言いたいと思います。炊飯器は素晴らしいんですけれども、根本的に言うと日本のさまざまな家電の取り扱い説明書が日本語しかありません(笑)。国際的に有名な大企業の商品でさえ、ドイツ語はまだしも、英語の取り扱い説明書すらない。このような国際化に関してはどうかなと思うこともあります。炊飯器だけじゃなくて、さまざまな家電につきましても、その取扱いを理解するのに非常に長い時間がかかりました。このような日本の事情がありますので、私の妻が3週間ほど前から、1週間に3回、合計で9回になりますが、日本語の集中講座を受けています。彼女が日本語を勉強してくれたら、取り扱い説明書も読めるようになると思います(笑)。(「6」へつづく)
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