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「ふつうのカップアップをさせたい」──菅澤優衣香、今季の想い

11月23日、伊賀FCくノ一三重に敗れ、皇后杯を3回戦で敗退した。
3つのタイトルを目指し、戦っていたチームにとって、極めて重い敗戦だった。
残りのタイトルは2つ。
勝ち続ける必要がある中、チームはどのようにこれからの試合に臨んでいくのか。
負傷からの復帰後、限定された時間の中でも、得点につながるプレーを見せる経験豊富な背番号9のストライカーに、自身の現状とチームへの想いを聞いた。
膝の痛みを抱えながらも見せるプレー

「コンディション、膝の痛みは、ゼロじゃないっていうのが正直なところで」
現状について聞くと、菅澤優衣香は、率直にそう答えた。
「ただ、その中でも、プレーできないことはないので、練習もそんなに負荷を落としすぎずにやれてるという面では、まあまあいい方ではあるかなと感じています」
痛みを抱えプレーし続けること。それは簡単なものではないだろう。
だが、その状況でも彼女はピッチに立ち、結果を出す。
10月25日のWEリーグ クラシエカップ アルビレックス新潟レディース戦では、終了間際に同点ゴールを挙げ、チームのPK勝利を呼び込んだ。
11月2日のSOMPO WEリーグ ちふれASエルフェン埼玉戦、そして、11月16日の皇后杯スフィーダ世田谷戦では、いずれも丹野凜々香へのアシストをしている。
短い出場時間の中でも多くの試合でゴールシーンに絡んでいるのだ。
「欲を言えばやっぱりフォワードなので、もう少し点は取りたいと思いつつも、やっぱりどうしても出場時間が短いという中で、得点かアシストか、流れを変えるかというところは、すごく意識してやっています。その中では、まずまずのスタートを切れたとは思っています」
そう、復帰後のプレーを振り返った。
チームが勝つために、より良い選択をしたい

先に挙げたシーンで印象的だったのは、11月2日のEL埼玉戦だろう。
菅澤の、チームを優先する姿勢が明確に見られたからだ。
89分、右サイドのタンチュリエ ローリーから中央に位置する柴田華絵へ斜めのパスが通る。
柴田は、相手を背負いながら、一列後ろにいた伊藤美紀へボールを送った。
伊藤は、ワンタッチでくさびのパスを入れ、菅澤へとボールが渡る。
うまく角度を作りながらボールを受けた菅澤の目の前には、相手DF1枚を隔てて、ゴールが見えていた。
フォワードなら、シュートを打ちたくなる場面だろう。
だが、彼女は、冷静に切り返して相手DFをゆさぶると、そのわずかの時間で動く味方と相手DFの動きによって、作り出されたスペースを冷静に見極めて、左サイドの丹野へとボールを送り、ゴールを引き出した。
「もちろん、あの場面でもシュートは打てました」
「誰もが打つだろうと思ったと思いますし、自分自身も、一つ前のプレーでターンしてシュートをしたりとか、2本連続で外していた場面もあったので、チャンスがあれば打ちたい、決めたいと思っていました」
だが、最後に訪れたチャンスで彼女が選んだのは、チームの勝利をより確実にする選択だった。
「その時点で2-0で勝っていましたけど、そこで1点入れればもっと余裕が持てる流れができると思いました。その目的に向かって、より良い選択を自分の中ではしたという感じです」
それが当たり前であるように、菅澤は淡々と振り返った。
経験が生む、ゲームを読む力

今季、レッズレディースは若手と言われる選手たちが躍動している。
監督の堀孝史の提示するサッカーの中で、個人の力量を発揮し、生き生きとプレーしている。
だが、一方で、拮抗した試合や苦しい時間帯では、経験が不足しているからか、焦りとともに無理な選択をしてしまい、自分たちで難しい局面を招いてしまっているシーンも見られている。
そうした中で菅澤は、時間を作ってほしいタイミングできっちりとボールをキープし、ファールをもらって味方が休む時間、落ち着く時間を作っている。
わずかな時間でも表現し、必要な経験の力をチームに加えているのだ。
「(そこは)めちゃくちゃ意識します」
菅澤は即座に答えた。
たとえば、今季初出場となった10月11日のSOMPO WEリーグ ノジマステラ神奈川相模原戦。
彼女が出場したのは、2-1のスコアで緊迫した終盤の時間だった。
そんな中、ラフに送られたロングボールにも、きっちりと落下地点に入り、相手も背負いつつ、ピタッと胸で止めてキープし、味方に時間を作っていた。
「拮抗した試合だったので、前で時間を作ってみんなを少しでも休ませてあげたいというのも思ってましたし、なんか変に自分の欲で得点への気持ちとかは出さないようにして、まずはチームが勝つために、自分がどういうプレーをすればいいのか、入る前にちゃんと整理して入っていました」
出場時間はわずか5分ほど。だが、菅澤はしっかりとチームの状況にあったプレーを表現し、存在感を示していた。
個人より、チームの結果を

菅澤は、皇后杯での敗退をどう受け止めているのか。
「ただただ悔しさと、ファン・サポーターのみなさんにすごく申し訳なさがあります」
試合を振り返れば、1-1になった時点でもう少し自分自身もゲームコントロールに関われていれば、という悔恨もあった。
「その90分で勝ち切るのか、延長も見越して耐える時間だったのか。追いついたので、自分たちも行けるとは思ってはいたんですけど。もうちょっと考えてプレーをしていかなければいけなかったというのはすごく感じています」
だからこそ、菅澤は思う。
「自分自身そんなにチームに何か言うことは、ゲーム中もないタイプなんですけど、やっぱり自分自身感じたことは少なからずあるので、どんどんそういうものは声に出して伝えていきたいと思いました」
短い時間で結果を出す、それを考えるのは楽しい

90分、フル出場していたときと、短い時間しか出られない今。
サッカー選手としてプレーする意味は変わっているのだろうか。
「変わらないです」
菅澤はそう話す。
「90分出ていたときも楽しかったんですけど、逆に今の短い時間でいかに結果を出すかというのを考えるのも楽しいんです」
自分が出て流れを変えてやる。ここで点を取れたらかっこいい。そう思いながらピッチに立つそうだ。
復帰後初ゴールとなった、あのループシュート。※最下部に映像あり
チームを助けたあの得点も、そうしたポジティブな気持ちとストライカーとして積み重ねた技術、経験に裏打ちされたものだった。
「フォワードだったら多分あの選択はすると思います。みんなあのタイミングで打つのはすごいと言ってくれるんですけど、キーパーの位置とボールのバウンドの仕方とか見れば、あそこで打つのが最善の選択かなと思います」
常にアクシデントに向けての準備はしている

次戦は、残された2つのタイトルのうちの1つ、クラシエカップになる。
「個人的には、ケガとの付き合いを考えると、90分は出られないんですが」と前置きした上で、次のように話した。
「前回のクラシエカップの新潟L戦では、シマ(島田芽依)にアクシデントがあって、45分、出場することになりました。
常にそういうアクシデントに向けての準備はしているので、いつどの時間に出ても、自分やチームが勝つために結果を出すだったり、身体を張ったりしていけたらと思っています」
そして、チームとしては皇后杯に敗れた後の、大切な一戦となる。
ふたたびタイトル争いへと力強く踏み出したことを内外に示す必要のある試合だろう。
「まずは本当に勝つことが1番だと思うので、しっかりと目の前の試合に、一人ひとりがチームのためにという想いを持って戦うことが1番だと思います。
気持ちを1つにして、選手だけじゃなくてスタッフ、レッズレディース全体で。もちろん自分たちが目の前の試合に集中して戦えば絶対に勝ち点3は取れると思います」
自分たちのため、そして、ファン・サポーターを始めとする支えてくれる方たちのため。
菅澤は力強く語った。
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最後の質問の回答を受け、インタビューを終えた。
だが、少し間を空けた後、菅澤は自ら、言い聞かせるようにこう話し始めた。
「高橋はな(高橋)に、いつものおふざけのではなくふつうにカップアップをさせたい、って思っているんです」
高橋は、これまでもタイトル獲得後のカップアップはしている。
しかし、それは、かつて浦和レッズに所属した森脇良太のお家芸を引き継いだもの。選手やスタッフが無反応で、スタンドからはブーイングをされるというおなじみもので、みんなの笑いを誘う役割でのカップアップだった。
だが、キャプテンとなったいま、タイトルを獲れば、高橋は最も純粋に喜びを爆発させる最初のカップアップをすることになる。
「はなは、ふつうのってしたことないじゃないですか。だから、それをさせてあげたい」
菅澤は、そう、やさしく微笑んだ。
プレーで魅せるダイナミックさや豪快さとは裏腹に、菅澤は、ふだんからやさしく、柔和な雰囲気を持つ選手だ。
痛みと向き合いながら、チームのために最善を尽くし、仲間の笑顔を想い描く。
そんなやさしいストライカーが、チームとしてふたたびタイトルへと歩み始める一戦で、どんなプレーを見せてくれるのか。ぜひ、注目してほしい。
(写真・文/URL:OMA)


この原稿は、レッズレディースパートナーであるStoryHub社のプロダクトを活用し、人とAIが共創して作成させていただいております。
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菅澤優衣香プロフィル
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