News
不定期連載『Face』vol.5 「仲間がいるから頑張れる」──後藤若葉の仲間への熱い思いと試合に臨む姿勢
2025/26シーズンの選手たちの素顔や試合に臨む姿を伝える不定期連載『Face』。
第5回は、レッズレディースに加入し、3シーズン目を迎える後藤若葉選手です。ぜひ、ご一読ください。

先日公開した選手プロフィルページのアンケートの「自分を動物に例えると何か?」という質問に、後藤若葉は、「心配性の動物いますかね」と、質問で返すという荒技をしている。
後藤らしいユーモアと真面目さが感じられる回答なのだが、おそらく、文字通り後藤は心配性なのだと思う。
本人曰く「家を出るときに、鍵を閉めて、確認するじゃないですか。それで車に乗って、運転していると、鍵、ちゃんと締めたかなって心配になっちゃうんです 苦笑」というほどに心配性らしい。
一般的には心配性というと、ちょっとネガティブに捉えられるかもしれないが、ピッチでの彼女のDFとしてのパフォーマンスには良い意味での影響を与えていると思う。
事前の予測と準備、そして味方へのカバーリングでのサポート。彼女がギリギリで決定機を防ぐ姿は、今季多く見られている。
だが、彼女のパーソナリティをそれだけで紹介するのでは足りないだろう。
彼女は、仲間を強く思い、チームのために戦うことのできる熱い心を持った選手なのだと、インタビューをして、あらためて感じたからだ。
◆DFへの縁◆

後藤がサッカーを始めたのは4歳のころ。
きっかけは、3つ上の兄の存在だった。
「自分が通っていた幼稚園にあったスポーツクラブが体操とサッカーがあって、兄がやっていたというのもあってサッカーを選びました」
それからプレーを続け、国内トップリーグの選手となり、今はセンターバックとして活躍する後藤だが、小さいころからDFに縁があったという。
「兄が最初につけていた背番号がたまたま3番で、そのユニフォームをそのままもらったんです。だから自分が最初につけた番号が3番で。3番ってディフェンダーの番号じゃないですか。だから最初からディフェンダーになる運命だったのかなって(笑)」
運命というには少し大げさかもしれないが、そう思えるほどに、DFが天職と感じるような気質を後藤はサッカーを始めたころから持っていた。
「小さいときからゴールを決めるより点を取られたくない、“負けたくない”が強くて」
幼稚園の中でのサッカーで、ドリブルをして点を取ったと思ったら、次は守らなきゃとずっと守備をしている。そんな子どもだったという。
「だから、負けたら1人でずっと泣いていました」
今の後藤にも見える負けず嫌いで責任感の強い性格は、そのころから持ち得ていたものだった。
◆違うサッカーを学びたい◆
その後、後藤は、強豪チームである日テレ・東京ヴェルディメニーナに加入し、メニーナから早稲田大学、そして三菱重工浦和レッズレディースへとプレーする場を移していく。
「実際、メニーナからトップ(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)に昇格できるとお話もいただいていたんです。でも、女子サッカー選手が、生涯本当にサッカーだけで生きていけるか、というと、そこはまだ厳しいんじゃないかと思っていて、大学にしっかり通っておきたいと思っていました」
「早稲田からレッズへの加入を選んだのも、メニーナの6年間でそのサッカーを学ぶことができたので、さらに違うサッカーを学びたいという気持ちでした」
進路を選ぶターニングポイントで、後藤は常に学びを意識した選択をした、ということだろう。
そして、それは、今の後藤を決定づけるような体験をもたらしてくれた。
◆ピッチに立ちたくても立てない選手がいる◆

もともと仲間を思う気持ちが強かった後藤だが、その気持ちにより熱を加えてくれたのは、大学での経験だった。
「早稲田って大学に入学できたらサッカー部には基本入れるんですよ。入部するのにテストとかなくて」
サッカーで推薦を受けて入ってくる選手もいれば、一般入試で勉強して入り、高校の部活でやっていましたという選手もいる。
日テレ・東京ヴェルディメニーナのように、ある価値観の中で、選りすぐられた選手たちが集まるチームとは違い、選手によって大きなレベル差があったのだ。
だが、だからこそ気づいたことがある。
「人間性の部分は早稲田に行って、本当に感じるものがありました。うまい、へたじゃなくて必死に頑張る姿。必死に頑張っても同じ練習にすら入れてもらえない選手もいたんです」
そうした姿を見てきたからこそ、試合に出ることへの重みをより感じるようになった。
「そういう仲間の姿を見ていたら、試合に出ている選手はやるしかないよね、と。そういう気持ちは、大学の4年間で1番強くなったと思います」
そしてその思いはレッズレディースでプレーする今も変わらない。
「ピッチに立ちたくても立てない選手がいる中で、立っている選手が、そんな中途半端なことできるわけないと思ってプレーしています」
◆背の低いセンターバックだからこそ◆
後藤は自身のプレースタイルについて、次のように話す。
「自分はセンターバックの中では背の低い方だと思うので、空中戦の勝負をしたら勝てないこともあると思うんです」
だからこそ、準備の部分、体の当て方、仲間との協力が重要になる。
「いい形で収めさせない、いい形で落とさせないボールというのを意識するようにしています。予測の部分、準備の部分というところ、頭を使ってプレーするというところは自分の強みなのかなと思います」
そして、今シーズンはビルドアップの重要性をあらためて感じている。
「センターバックからのビルドアップって本当に大事だと思っていて。自分のところからいい形で攻撃を作り出す、試合を落ち着かせるということができるのが、センターバックの楽しさでもあると感じています」
直結するパスやアシストだけでなく、攻撃の起点となり、試合の流れをコントロールする。
「今はセンターバックをやっていてすごく毎試合毎試合、自分自身成長できているかなと感じています」
◆ピッチ内でも、ピッチ外でも◆

そんな後藤に、今シーズンのアピールポイントを聞く。
すると「存在感」という言葉が返ってきた。
「ピッチ内でも、ピッチ外でもチームを支えていきたいというところがあって」
ピッチ内では、DFとして体を張ること、そして、声で未然にピンチを防ぐこと。攻撃面では、ビルドアップで「あ、この選手ずっとここにいてくれて助かるな」と思ってもらえるような存在になること。
それは、チームへの思いとつながっていた。
そしてピッチ外では、選手の様子をよく観察し、困っている選手がいれば声をかけられる存在でありたいという。
「練習のときに雰囲気作りというところで、自分自身の存在感を出していければと思っています。それがチームにとっていい影響につながればいいなって」
後藤が大切にしているのは、先輩たちから受け継いだものを次の世代につないでいくことだ。
「このクラブに入って、梢さん(安藤)だったり、華絵さん(柴田)、優衣香さん(菅澤)だったり、ベテランの選手たちがあれだけやっている姿を見せられたら、やるしかないよねと思うんです」
そうした選手たちは、プレーだけでなく、ピッチ外での振る舞いも含めて、多くのことを示してくれている。
「そういう選手が今後抜けたときにも、若い選手たちにオンザピッチの部分だけではなく、このクラブを支えてきてくれた先輩たちがどういう気持ちで試合に臨んでいたかみたいなところも含めて、紡いでいかなきゃいけないと思っています」
違うチームの文化も知っているからこそ、このクラブの良さを伝えていくこともできるだろう。
「そういう間をうまくつなぐ役はすごく大事になるし、今の若手の選手たちは本当にいいもの持ってると思うので、それ以外の部分も少しずつ伝えていければいいのかなと思っています」
「私のプレーを見て何かを感じてくれればなとも思いますし、でも、いつかは言葉でもちろん伝えなきゃいけないときも来るとは思ってるので、ちゃんと伝えられて、これからチームを支えていく選手に若手がなってくれればと思っています」
◆仲間がいるから続けられている◆

都内に住む後藤は、渋滞を考慮し、朝4時半に起床して、練習場があるレッズランドに通う日々を送っている。
それは決して簡単なことではないだろう。
それでも後藤がサッカーを続けていく理由は何か。
「チームスポーツだから続けられているのかなと思います」
後藤はそう話す。
応援してくれるファン・サポーターの方々、サポートしてくださるパートナー企業の方々。家族やさまざまに関わってくださる方たち。
そして何より、一緒に研鑽を積む仲間がいる。
「隣を見れば一緒に頑張っている仲間がいて、きついときでも、もっときつそうな人もいるし、その人も頑張っているんだから自分も頑張ろうという気持ちになるんですよね」
特別なゴールをした瞬間も忘れられないけれど、と後藤は言う。
「それよりも仲間がいるから頑張れるのかなと思います」
それは小さいころからそうだった。
負けて悔しいとき、男子チームの中で一緒にやっていた仲間が寄り添ってくれた。
中学生、高校生のときは、競い合っている仲間がいて上を目指せた。
「チームメイトはもちろん、サッカーをやってこれまで関わってきた仲間もいるから今も続けられている気がします。海外で活躍している選手の姿を見たら、やっぱり自分ももっと頑張らなきゃってなるし、逆に怪我だったりでこの先続けていけなくなった選手の気持ちとかを考えるともっとやんなきゃいけないよなと思います」
後藤は、他者への思いを持ち、それを表現できる選手なのだと思う。
◆もっとうまくなりたい、もっと強くなりたい◆
最後にプレイヤーとしてどうなっていきたいか聞いた。
「なでしこジャパンになりたい、世界一になりたい、というのがあるかと言われたら、今はそんな大きな、先の未来というのは描けていないんですけど」
そう話した後、次のように続けた。
「でも、今、毎日練習だったり試合だったりをやっていても、ああ、ここが足りなかったなとか、ここ、もうちょっとできたらなとか、ここをもっとうまくなりたいなみたいな、そういう気持ちが日々芽生えてくるんですよね」
「そういうものがある限りは、チームが勝つために、より良くするためにみたいなものを追求して行きたいのかなと思っています」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

10月25日に行われた、2025/26 WEリーグクラシエカップの初戦。
アルビレックス新潟レディース戦で迎えた87分。
後藤は、相手のミドルシュートのコースに入り、ギリギリのところで頭を突き出して、シュートブロックをした。
この時点でのスコアは1-2で新潟Lがリードしていた。
ここでもう1失点をしていたら、その後の菅澤優衣香の同点ゴールや伊能真弥のPKストップでの勝利はなかっただろう。
彼女が言ったとおり、ピッチに立った以上、やらなければいけないという気持ちが、強く表れたシーンだった。
11月からリーグが再開する。
優勝するためには、一つも負けられない状況が続く中、後藤はチームが掲げる一戦必勝を心に刻みつけている。
「昨シーズン、特に大事な後半戦の勝負どころで勝ち点をこぼしていってしまった結果、優勝できなかったというところが、本当に自分自身、試合に出させてもらっていた中で悔しかったです」
リーグ後半の初戦は、ちふれASエルフェン埼玉との埼玉ダービーになる。
前半戦で大差をつけた相手だが、だからこそ、相手は死に物狂いで来るだろう。
そんな試合で、心配性でありながら、仲間への熱い心を持つ背番号4のDFがどんなプレーを見せるのか。
彼女の持つパーソナリティが表現されたプレーをぜひ、見てほしい。
(文・写真/URL:OMA)

【関連コンテンツ】
◆後藤選手プロフィル
https://www.urawa-reds.co.jp/redsladies/players/player_4.html
◆2025/26シーズンコラム
Player's Column 後藤若葉/積み上げの先に見える成長と手応え